リアル店舗がネット企業に勝つ方法

【酒井】日本では一流オーケストラの一員でもなかなか食べていくのが大変ですからね。文化に対する意識は国としてもっと高くあってもほしいものですね。さて、三越伊勢丹に限らず、今後百貨店、さらに言えば小売業が生き残っていく鍵はどのあたりにあるとお考えですか?

【大西】いまGDPの6割くらいが消費で占められていて、そのうちの半分くらいが大きなくくりの小売になるでしょう。現在、リアル店舗からネット店舗での販売が増えていて、その勢いはとうぶん続くと思います。

金額にすると10兆円規模のものがリアルな小売業からネットのほうに抜けていくわけで、百貨店を含めて実際に店舗を持つ小売業はこれから厳しい時代になると思います。これまでのように百貨店があって専門店があってコンビニがあって、という秩序は崩れてくるでしょう。

百貨店について言えば、生き残れるかどうかは、すべてお客様の判断基準にかかっています。目に見えない、絶対的な価値をいかに提供できるか、ですね。

具体的には、価格と価値のバランスのとれた商品を並べられるか、お客様が心地良さや豊かさを感じられる環境空間をデザインできるか、新しい体験や発見を見つける場をつくることができるか……。モノありきではなく、複合的な価値を提供できる組織が勝ち残っていくのだろう、と思います。

そして首都圏と地方では売り方は違います。首都圏では、グローバルを意識した発信力が非常に重要です。グローバルにアンテナを張り空間も含めた店舗づくりをして、精度の高いプロダクトを提供する。さらに販売員がスタイリングも含めてかなり質の高い接客をしていかねばなりません。

地方の場合、残念ながら数字上も百貨店が供給過多なのは明らかです。総面積がいまの半分くらいになって需要とマッチするのが現状です。供給面積をいまの半分に絞ったときに、面積は半分になったけれど、お客様を満足させることができるかどうか、そこが勝負です。

これまではお客様が一時間の時間を費やしていた店舗の面積が半分になるわけですから、そこには30分居ればいい。するとその周辺に残りの30分を過ごす空間があるかどうか、その辺りがカギになってきます。

これは幸運だと思いますが、地方では百貨店の立地条件はとてもいい場合が多い。そのため百貨店単体で考えるより、ホテルやレストランなど周辺の良質な施設と連携して、食や娯楽を含めた複合的な街づくりを意識した開発が必要になってくると思います。

百貨店単体ではなく、街づくりを意識しないといけないのは首都圏も一緒です。渋谷をはじめとして急激に変わりゆく街の中で、その街の特色を理解し、自らのあるべき姿ををきちんと描いていかないとこれからの小売業はなかなか成立しないでしょう。(後編に続く)

(山田由佳=構成、黒坂明美=撮影)