ショートケーキだらけの売り場を夢見る

【酒井】大西さんは、三越伊勢丹の業績回復のためにさまざまな改革に挑戦されたわけですが、志半ばといいますか、アイディアを持ちながらも実現まで至らなかったようなことはありますか?

【大西】新宿伊勢丹の地下の食品売り場はいま以上にもっと強く独自性を打ち出したいと思っていました。新宿伊勢丹の食品売り場は当時から売上は堅調だし、お客様で賑わってはいました。百貨店の食品売場はメディアで「デパ地下」と呼ばれていますが、それでは新宿伊勢丹がほかの百貨店の「デパ地下」と何が違うのかというと、「新宿伊勢丹ならでは」というものが意外となかったのです。

当時はメディアの取材でも「デパ地下の取材」と言われたら取材は受けるな、と私は言っていました。「デパ地下」でひとくくりにされてしまうと他社と同じになってしまうからです。

新宿伊勢丹の食品売り場の独自性を出すために私がやってみたかったものの一つは、生鮮をまとめた売り場です。パリにあるマーケット(マルシェ)のイメージですね。これを地下2階に作りたかった。

そして地下1階では食品のカテゴリー別の陳列です。食品は、基本的にはブランド毎に商品が売られています。これをやめて、たとえばショートケーキなら新宿伊勢丹に入っているすべてのブランドのショートケーキが一カ所に並べられている、ということをやってみたかった。

千疋屋さん、アンリシャルパンティエ、ほかのブランドのものも含めてショートケーキはすべてそこで選べるという具合です。チーズケーキやモンブランなども同じように。するとお客様は、一度に複数のブランドのショートケーキを買ったり、ケーキの種類毎にいちばん気に入ったブランドのものを選ぶことができるわけです。

【酒井】それはおもしろいですね。メンズ館と同じ発想でファッションのセレクトショップ的な売り方をするわけですね。食品もカテゴリー別に揃えていくという。

【大西】洋菓子に限らず、総菜でも同じようにできたらと思っていましたが、新宿伊勢丹の食品売り場については私の力不足で思うほどには大掛かりにはできませんでした。