日本旅館の対極にあるホテルの機能分化
ホテルのバー・ラウンジほどビジネスに重宝する空間も珍しい。高級感とゆとりがあり、ゆっくりと話ができる。
この仕組み・空間は西洋人が考えた“傑作”と言えるかもしれない。西洋生まれのホテルは空間の機能分化が図られている。チェックイン・アウトを行うレセプションとロビー・エリア、食事をするダイニング、食事の前後などに飲料と会話を楽しむバーやラウンジ……といった具合に、目的によって機能、空間が分かれている。
一方、日本旅館は大・中規模であればこれに近いケースも多いが、小規模の高級旅館はそうではない。チェックイン・アウト、食事も客室で行われ、酒を飲んだりくつろいだりするのも客室の中、ということがほとんどだ。「離れ」だと一層その傾向が強まるだろう。
もしかすると日本人は、目的によって空間を使い分けることが苦手なのかもしれない。しかし、ビジネスでこの空間の使い分けを活用すれば、商談や接待(妻の接待も含む)にも複層的なハイ・グレード感が生まれてくることは間違いない。
ロビー、ラウンジ、バーの違いとは?
ロビーとラウンジの変遷を見てみよう。ロビーとは元来、文字通りパブリック・スペース的な場所であって、待ち合わせだけではなく、ゆっくり話をしたりできる場所だったようだ。ホテルオークラの特に旧本館(すでに閉館建替え中)はそうした機能と雰囲気を強く持っていた。飲料を取らなくても、つまり無料でも、使えるソファとテーブルが数多くあった。文机もある本当に余裕のある空間だった。
しかし、いまではこういうスペースの使い方は珍しくなり、ロビー空間の多くがロビーラウンジ的な、すなわち有料の飲料を注文しながら滞在する場所であることがほとんどだ。こうした現代に繋がる変化の流れを推進したのは、ヒルトンホテルズの創業者、コンラッド・ヒルトンだと言われている。
ヒルトンは、パブリック・スペースから無料で使える空間をなるべく少なくし、できるだけ“床”から収益が上がるようにしていった。ソファやテーブルの多くは料飲施設のラウンジとし、ロビーの周辺に店舗を配置していく、という考え方だ。これが多くの現代型ホテルの模範となった。若干の寂しさも感じる変化だが、ホテル・マネジメントの考え方としては非常に的を得ている。
ラウンジが飲料とともにソファとテーブルでゆったりくつろぐ場所の意味合いが強い一方で、バーはBAR(棒)の文字の通り、カウンター中心の飲料を楽しむ施設だった。しかし近年、その差は曖昧になってきている。提供される飲料や料理も多種多様になり、レストランとバー、ラウンジの兼用のような施設も多くなってきている。だが、バーらしいバー、ラウンジらしいラウンジもまだまだ健在である。