仕入れと販売を同時に改革した理由
【酒井】一般的には、業績が厳しくなると「まずは人件費などのコスト削減」と考える経営者が多いと思いますが、大西さんはある意味、真逆のことをお考えになったわけですね。
【大西】百貨店の業績悪化の要因は少なからず外部にもありますが、内部にもあります。そのひとつが、百貨店で扱う商品の原価率の低さです。ユニクロさんやニトリさんのように、企画から製造・販売までを一手に担うSPA事業では、商品の原価率が非常に高い。おそらく45%~50%でしょう。原価率が高いということは原材料にお金がかけられますから、商品の質が高くなります。
一方、百貨店は、「商品を仕入れて売る。売れ残ったら仕入れ先に返品する」というリスクをとらない商売方法を長年続けてきました。これだと商品の製造から販売までの間にプレイヤーが多く入りますから、その分コストがかかって、原価率はおそらく25%~30%です。これでは質と価格のバランスでは、ユニクロさんやニトリさんにはとても勝てないわけです。
先程、酒井さんがおっしゃった「仕入れ構造改革」は、百貨店が長年続けてきたこのビジネス構造を変える試みでした。そのひとつが、百貨店もある程度リスクをとって、価格と価値のバランスのとれたよい商品を自ら作って売っていくこと。そこでSPAに近い事業を全体の25%ぐらいでやりたいと思い、自分たちで素材を開発したり、地方や海外の工場などへ行き、三越伊勢丹のプライベートブランドを立ち上げていったのです。
そして、ここでもやはり大事なのは、最終的に「売る」という部分です。どんなに価格と価値のバランスのとれた良い商品をつくっても、販売スタッフが売ってくれなければ事業は完結しません。ですので、まずはこの部分にインセンティブ制を導入しました。