なぜ販売スタッフの給料は上がらないのか?

【酒井】売り場の華やかさの裏で販売スタッフには相当なご苦労があるわけですね。

【大西】そうなんです。販売スタッフは、百貨店という組織のなかで最終的にお客様に商品を「売る」という非常に重要な位置にいます。その分苦労があり、その苦労があるからこそ売上が出るわけですが、そこが十分評価されていないと感じていました。

大西 洋●OFFICE TAISEIYO 代表。1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。79年伊勢丹入社。紳士部門を歩んだ後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長などを経て、2009年伊勢丹社長執行役員、12年三越伊勢丹HD社長、三越伊勢丹社長に就任。17年4月退任し、現職。

当時、私の上に約20年間、ずっと店頭で販売を続けている女性の先輩がいました。私はその方に鍛えられたのですが、その方とはいつも販売の仕事が終わると、地下の休憩所で互いのタグの数を確認するのです。当時はまだPOSがシステム化されていなかったので、商品を売ると、その商品についていたタグを自分のポケットに入れておくことになっていました。

タグの数は、毎回、彼女のほうが私より多い。私より2倍、3倍という日もザラで、3年間、彼女に勝てたことは一度もありませんでした。しかし3年後には私の給料は彼女とほぼ同じになっていたのです。「これはおかしい」と当時から思っていました。

経営に関わるようになると、そのアンバランスさがより具体的に見えてきました。三越伊勢丹の販売スタッフの平均販売月額は、2000万円から3000万円ですが、なかには2億円売るスタッフもいるわけです。しかしそれが給料に反映されているかというとそんなことはない。

同じ年齢だと給与で1万円程度、ボーナスでも数万円程度の差しかありません。2億円売る人なら役員並みの給料を出してもいいはずなのにそうはなっていない。これはおかしいと思いました。