すごい人でもふつうの人でも「大差ない」

ところで、「トミー・ジョン手術」ってご存知だろうか。最近、新聞紙面でよく目にするようになった。随分前、大リーグをせわしなく取材していた時、初めて耳にし、少し調べたことがあった。

この手術では、痛めた腱を取り除き、利き腕の逆の腕や前腕など、故障個所の他の部位から摘出した腱に置き換える。例えれば、使いすぎて伸び切ったゴムを、あまり使ってないゴムに付け替えるようなものである。移植する腱をより頑丈にとり付け、ちゃんと定着できれば、手術前より、速いボールを投げられるようになる、という人も少なくない。

トミー・ジョンとは、1974年に大リーグで初めてひじの靭帯修復手術を受けたサウスポー投手である。執刀したのが、この手術の考案者、故フランク・ジョーブ医師だった。1年前、88歳で亡くなった。

旧知の田代学さん(サンケイスポーツ一般スポーツ担当部長)はメジャー取材歴13年を誇り、全米野球記者協会の理事も務めた。トミー・ジョン氏も、生前のジョーブ医師も取材している。

「復帰するために最も重要なのはリハビリだ」と二人とも言っていた、と田代さんは教えてくれた。

「移植してきた腱は、肉体的にすごい人でも、ふつうの人でも大差ないんです。焦って、与えられたリハビリのメニューより、はやいペースでどんどん移植箇所を動かせば、必ず失敗する。そんなことを話していました」

つまり、手術の成否はリハビリ次第ということになる。「焦りは禁物」。ダルビッシュにとって、大事なことは「我慢」ということになる。球団も我慢、ファンも我慢。

ダルビッシュ復活のためには、手術後、治療に専念し、じっくりリハビリに取り組むしかないのである。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年春より、早稲田大学大学院に進学予定。
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