全国に勇気を与える2つの「奇跡」

その日から4年足らず、有言実行の清宮監督はどん底だったチームを日本選手権優勝に導いた。この勝利はきっと、全国の弱小チームに勇気を与えたことだろう。ハードワークを積み重ねればチームは変わるのだ。

さらには釜石の「奇跡」である。前人未到のV7を果たした“北の鉄人”新日鉄釜石があった「ラグビーのまち」とはいえ、人口3万6000人の地方都市である。しかも、震災で町は津波にのまれ、W杯用のスタジアムもまだ、ない。あるのは市民の熱意だけだった。

絶望の淵をさまよった市民たちが、希望を持ったのである。実現性を疑う声に、増田さんはこんなことをしみじみと言っていた。

「こんな震災にあった小さな町が、全国と勝負できること自体が、釜石にとっては貴重な経験なのです」

釜石は、そのW杯招致レースに勝った。W杯は、30年後、50年後の町づくりの契機となる。決定後、ぼくは増田さんに聞いた。これからの期待は何ですか?と。

「誰もが頭に浮かべるような、それでいて新しい姿の、私たちの故郷を、みんなで力を合わせてつくることです」

釜石決定もまた、キツい状況の地方の町に勇気を与えることになる。未来に向け、人や町にとって、やっぱり希望は大切なのだ。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。
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