サントリーサンゴリアス清宮監督はチームを確実にトップに育て上げる指揮官である。母校早稲田大学を3度日本一に導き、古巣サントリーを率いて2年目の昨季、優勝を飾った。トップリーグが幕を開けて約2カ月。「言葉には選手の行動を変える力がある」という信念のもとに闘う清宮サンゴリアスは、今季どんなラグビーを見せてくれるのだろうか。
トップリーグ第3節。後半33分。4点差に詰め寄られたサントリーサンゴリアスは、ゴールポスト正面22メートルラインでペナルティを得た。キックかスクラムを選択できるが、キックなら無難にゴールを奪え、3点が追加できる。残り試合時間7分を考えれば勝利は、ほぼ間違いない。ところがサンゴリアスはスクラムを選択した。
「サントリーらしい攻撃でした。僕はずっと、どこで相手に勝つんだと選手にいってきた。そのひとつがスクラムでしたから。勝ちにこだわるならキックでもよかったけど、自分たちらしさを出すという部分で意味があった選択でしたね」
失敗すれば致命傷になりかねない決断だが、選手に迷いはなかった。清宮克幸監督が目指す“ボールが動くラグビー”が選手に浸透している証しである。自慢のスクラムで相手を圧倒し、見事なパスワークを見せる。執拗にタックルを仕掛けてくる相手守備陣を振り切り、右隅にトライ。観客席から大歓声が起きた。
清宮がサントリーの指揮官に就任して、今季で3年目。低迷していた母校・早稲田大学を5年間で3度の大学日本一に導いた手腕で社会人のトップリーグでも活躍。弱体化していた古巣にプロ監督として復帰すると1年目からファイナルに進出、2年目の昨季は優勝を飾った。
サンゴリアスラグビーの特徴は“熱さ”にある。それを象徴するのが、清宮が作成したキーワードだ。チームビジョン「Leading Japan Rugby」。ただ、勝つためにプレーを選択してはいけない。見る人が感動して、少年たちが憧れるゲームをしよう。そしてチームスローガン「ALIVE」。苦しくてもあきらめるな、最後までチームに貢献するんだ。
「大事なのは、それでチームは変わる、勝てると信じ込ませることです。言葉には選手の行動を変える力があります」
実際、試合や練習で精神的、肉体的に厳しい場面になるとグラウンドのあちこちから「ALIVE」「ALIVE」と聞こえてくる。この言葉が選手を鼓舞し、チームがひとつになっていることを実感した。(文中敬称略)