サントリーサンゴリアス清宮監督はチームを確実にトップに育て上げる指揮官である。母校早稲田大学を3度日本一に導き、古巣サントリーを率いて2年目の昨季、優勝を飾った。トップリーグが幕を開けて約2カ月。「言葉には選手の行動を変える力がある」という信念のもとに闘う清宮サンゴリアスは、今季どんなラグビーを見せてくれるのだろうか。

トップリーグ第3節。後半33分。4点差に詰め寄られたサントリーサンゴリアスは、ゴールポスト正面22メートルラインでペナルティを得た。キックかスクラムを選択できるが、キックなら無難にゴールを奪え、3点が追加できる。残り試合時間7分を考えれば勝利は、ほぼ間違いない。ところがサンゴリアスはスクラムを選択した。

<strong>サントリーサンゴリアス監督 清宮克幸</strong><br>
大阪府立茨田高校でラグビーを始め、高校日本代表となる。早稲田大学では2年生で日本選手権優勝、4年生では主将として大学選手権優勝。1990年サントリーに入社しラグビー部入部。2001年早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任後、5年連続で関東大学対抗戦全勝優勝。大学選手権3度制覇。06年サントリーラグビー部監督就任。07-08年プレーオフトーナメントマイクロソフトカップ優勝、日本選手権2位となる。
サントリーサンゴリアス監督 清宮克幸 大阪府立茨田高校でラグビーを始め、高校日本代表となる。早稲田大学では2年生で日本選手権優勝、4年生では主将として大学選手権優勝。1990年サントリーに入社しラグビー部入部。2001年早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任後、5年連続で関東大学対抗戦全勝優勝。大学選手権3度制覇。06年サントリーラグビー部監督就任。07-08年プレーオフトーナメントマイクロソフトカップ優勝、日本選手権2位となる。

「サントリーらしい攻撃でした。僕はずっと、どこで相手に勝つんだと選手にいってきた。そのひとつがスクラムでしたから。勝ちにこだわるならキックでもよかったけど、自分たちらしさを出すという部分で意味があった選択でしたね」

失敗すれば致命傷になりかねない決断だが、選手に迷いはなかった。清宮克幸監督が目指す“ボールが動くラグビー”が選手に浸透している証しである。自慢のスクラムで相手を圧倒し、見事なパスワークを見せる。執拗にタックルを仕掛けてくる相手守備陣を振り切り、右隅にトライ。観客席から大歓声が起きた。

シーズン開始直前に網走スポーツトレーニングフィールドで行われた合宿でも、自分たちらしいゲーム運びにこだわる練習を繰り返した。

シーズン開始直前に網走スポーツトレーニングフィールドで行われた合宿でも、自分たちらしいゲーム運びにこだわる練習を繰り返した。

清宮がサントリーの指揮官に就任して、今季で3年目。低迷していた母校・早稲田大学を5年間で3度の大学日本一に導いた手腕で社会人のトップリーグでも活躍。弱体化していた古巣にプロ監督として復帰すると1年目からファイナルに進出、2年目の昨季は優勝を飾った。

サンゴリアスラグビーの特徴は“熱さ”にある。それを象徴するのが、清宮が作成したキーワードだ。チームビジョン「Leading Japan Rugby」。ただ、勝つためにプレーを選択してはいけない。見る人が感動して、少年たちが憧れるゲームをしよう。そしてチームスローガン「ALIVE」。苦しくてもあきらめるな、最後までチームに貢献するんだ。

「大事なのは、それでチームは変わる、勝てると信じ込ませることです。言葉には選手の行動を変える力があります」

実際、試合や練習で精神的、肉体的に厳しい場面になるとグラウンドのあちこちから「ALIVE」「ALIVE」と聞こえてくる。この言葉が選手を鼓舞し、チームがひとつになっていることを実感した。(文中敬称略)

(長岡洋幸=撮影)