一方、立正大学講師で心理学者の内藤誼人氏は、実際はそうであっても「すっかり忘れていた」ことは内緒にすべきであり、また、「忙しくて」という口実は言うべきではないと言う。言い訳をしても相手は、自分が軽んじられたと感じるだけだからだ。内藤氏はこの場面では機転を利かせ、とこう話す。
「最初に決めた期日を過ぎてしまったことを謝罪したうえで、それは自分なりに力を尽くしていたからこそ遅れてしまった、と伝えるのです。『他の雑用を片付け、あなた(御社)のお仕事を最後に100%のエネルギーを注いで丁寧にやろうと思っていました』『プレゼンのための資料集めにいつもの2倍の時間がかかってしまった』『よりよいモノを納品するため原材料を集めるのに手間取って……』などと、自分にとっての最重要案件だったからこそ手抜きできなかったことを前面に押し出すのです。それはつまり、こちらの都合ではなく、すべてあなた(御社)のためを考えてしたことだと伝えれば、怒りは最小限にとどめられるのでは」
デートの約束時間に遅れたのは贈る花束を探していたから、といえば相手はまず怒りにくい。その「花束理論」をビジネスに応用して、相手を思いやる気持ちが特別に強かったからこそ、今回の事態を招いてしまったことにすれば、新たな信頼を獲得するワンランク上の謝罪になるかもしれない。
謝罪の急所:失念したと言ってはいけない
弁護士。1937年生まれ。東京大学法学部卒業後、1963年に弁護士登録。企業の雇用調整によるリストラ問題、企業再生の各種相談や講演活動をおこなう。
内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学講師。有限会社アンギルド代表としてコンサルティング業務をする一方、執筆業に力を入れる心理学系アクティビスト。