以降も大きな仕事を任せた。その都度、私はこう伝えた。「あなたが決めなさい。責任は私がとる」。彼女は自分でジャッジをする訓練を重ね、幹部も感心するほど力を発揮した。彼女はその後、実務で法律の面白さを知ったことから司法界を志して退社し、今は裁判官、まさにジャッジの職に就いている。私も「君が決めろ」と任せてくれる上司に恵まれた。決断のスピードを高めるにはジャッジする訓練の場に自らを投じることをぜひ勧めたい。
決断する際のポイントがもう一つある。全員が賛成するのを待っていては手遅れになってしまうことだ。誰もが賛成するころにはどの会社もやっている。その前に、半分以上が反対でも決断して初めてスピード感が出る。
原動力は革新する力、すなわち、イノベーション力だ。その原動力をブレない軸としての自己の価値観が後押しする。自分の価値観が明確な人間は、相手の価値観も受け入れて多様性を認めることができる。多様性の受容は自身のコミュニケーション力を高める。特に大切なのは聞く力で、相手の話に耳を傾けることで、自ら語る力も培われる。
コミュニケーション力が高まれば、より的確な情報を収集することも可能になる。「事実」の向こうにある「真実」を見抜き、決断のスピードを加速し、イノベーションを推し進め、すべての力が好循環する。
価値観が不明確な人間はまわりを見るばかりで決断ができない。自分の価値観を持つという最も根源的な力が中核にあって、初めて決断のスピードが生まれることを忘れてはならない。
1950年、長野県生まれ。県立長野高校卒。75年京都大学経済学部卒業、同年住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。2005年執行役員経営企画部長、06年常務執行役員、07年専務執行役員を経て、10年から現職。
座右の銘・好きな言葉:巧遅拙速
座右の書・最近読んだ本:『現代の経営』(ドラッカー)、『日本人へ』(塩野七生)
尊敬する経営者・目標とする経営者:特になし
私の健康法:休日の散歩