国内の人材育成についてお話ししましょう。技術革新と若手技術者の育成を目指して、社長就任直後に「技術開発戦略会議」を立ち上げました。
日本では過去の成功体験に縛られて、技術革新が生まれにくいと言われますが、なんとかその壁を打ち破れないかと考えています。技術者は、過去に成功した製品があると、それと似た製品をつくりがちです。私は「この10分の1の機械を開発してこい。大きさもコストも。それが開発できたら今のビジネスを2倍にも3倍にも、いや4倍にもできるぞ」とハッパをかけていますが、なかなか理解してもらえない。
技術革新は、新たな付加価値をつける点では大事ですが、競争相手を間違っているのではないでしょうか。技術者は機械が売れなくなるから付加価値をつけると言いながら、自分の過去と競争して“勝った、負けた”と騒いでいる。それが成功体験の恐ろしさです。
ビジネスの勝敗は、「ライバル企業」と、「使う人」で決まるものです。私は、この2つを見てどうすべきかをいつも考えろと言っていますが、そのためには農業そのものを研究する必要があります。農業機械の歴史は、農業を研究することで、発展してきたからです。例えば、アメリカにおける農業は、飛行機を使って種を蒔いています。
機械の性能を向上させることばかりに目を向けて、農業の研究が疎かになっていないか? だから、私は「もっと農業を研究しろ」と口を酸っぱくして言ってきました。それは機械を販売するだけの、従来のビジネスモデルから、農業の無人化、そして農家や流通を含めた新しいビジネスモデルを構築すべき時期にきていると思うからです。
また昨年、グループ全事業所を対象に「技能コンテスト」をスタートさせました。それは、退職年齢を迎える技術者が増加し、技能を伝えることができる人が激減している現状からです。
まさしく私と同期くらいの現場の人間は、“目をつぶったって右か左かがわかる”ような熟練者が多いのですが、多くが退職してしまっている。例えば、海外で工場を立ち上げる際に、一番必要なのは現場を熟知した技術者ですが、ほとんど残っていません。ですから、このような技能コンテストを一生懸命やってもらって、現場を指導できる人材を育成しようとしているのです。