人を育て、現場を強化する

当面、推し進めていくのは、海外展開の加速と経営効率の改善といっていいだろう。今回の合併については、損保ジャパン日本興亜の社長に就いた二宮(雅也)と何度も話し合った。その結果、これまでの合併作業の経験を生かし、合併シナジーの早期発現を目的として、合併前から「指揮命令系統」の一本化、すなわち、“ワンウィル体制”へのシフトを進める決断をした。

これは両社の拠点を統合するだけではなく、役職員を相互兼務させるという損害保険業界では初の試みである。13年4月、役員、本社部長のワンウィル化からスタートし、支店長、次に課支社長までやろうと合併合意から2年かけて組織のワンウィル体制を進めてきた。今年の4月1日をもって課支社長までポストを完全に一本化し、ワンウィル体制が出来上がった。つまり、9月1日は法的な意味での合併日であるが、われわれ社員の気持ちの中では既に今年4月には合併作業が完了していたのである。

新会社を軌道に乗せるに当たって、当社の武器は、グループ社員一人ひとりの現場力にほかならない。強い現場力というのを私なりに定義すると「顧客に近いところにいる人が、顧客満足になると判断すれば、その場で決断し、行動すること」だ。これは私どもの経営理念に通じ、そのためにも、顧客視点のグループ経営理念が社内に浸透していることが大事だろう。

それには、役員はもとより、部支店長、そして課長まで適切な権限が付与されている必要がある。当面は、私の考え方を経営陣で共有し、できれば管理職レベルまで一体化を図りたい。つまり、意思決定権を現場に下ろすわけだ。とりわけ、最前線指揮官である課長が鍵を握る。最近では業界を問わず「課長たちのスケールが小さくなった」という嘆きを耳にする。しかし、そうであっては現場力が弱体化してしまう。

時代の流れかもしれないが、原因は社内での役割の分担がはっきりしていないからだ。彼らに適切な権限移譲をし、得意な分野に集中してもらう組織体にすれば、間違いなく実力を発揮する。もし、結果が良くなかったとしても、グループのビジョンに沿って行動したのなら仕方がない。そのことが「何が会社にとってプラスなのか」を考えられる一騎当千の課長を育てることにつながる。そして、その強化こそが求められている。なぜなら、サービス産業の最大の差別化要因は“人”そのものだからである。

櫻田謙悟(さくらだ・けんご)
1956年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、安田火災海上保険入社。2010年に損害保険ジャパン社長に就任、2014年9月より損保ジャパン日本興亜会長。12年より日本興亜損保との持ち株会社NKSJホールディングス(現・損保ジャパン日本興亜ホールディングス)社長を兼任。
(構成=岡村繁雄 撮影=市来朋久)
関連記事
日本企業は「グーグル化」できるのか
なぜ社長は即断即決できないのか?
日本の課長に元気がなくなった訳
上司が楽できる「超・権限委譲」マニュアル
「失敗してもいい」に奮起!スタッフの育て方