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誰が虐待しているのか 出典:厚生労働省 
“約6割が実母からの虐待”

「私、子供に何をしてしまうかわからなくなって、トイレに鍵をかけて閉じこもったことがあります」

4歳・2歳・0歳の3人の子供を持つ佐野優子さん(仮名)が、思いつめた表情で切り出した。予想外の告白だった。4人中、彼女が最も沈着冷静で、子供にもわかりやすい話し方で上手に対応していたからだ。

彼女の4歳の長男は生後、脚の病気でギプスを装着していて、チャイルドシートも抱っこヒモも使えず、外出さえできなかった時期がある。また、当初は母乳が出ず、義母からは奇異な目で見られ、「食事が悪いのでは?」とまで言われた。

地域にママ友をつくろうと自治体主催の赤ちゃん教室に通うと、複数の子供を持つ参加者ばかりで、初産の身には「母親失格」の劣等感がふくらんだ。夫に子供を叩いたと打ち明けると、そんなことで怒らなくてもいいじゃないかと一蹴された。

「私、ストレスのやり場が全然なくて、ぐずる長男を何度か叩いてしまうと、もっとエスカレートしそうで怖くて、真っ暗な部屋に彼を閉じこめたり、反対に私がトイレに鍵をかけて閉じこもったりして……、虐待のニュースも他人事(ひとごと)じゃなくて、もし、私もあのままだったら……」

話すほどに当時の焦燥や恐怖を思い出したのか、彼女の紅潮した両頬には涙が伝い、両肩を上下させながら何度もしゃくり上げた。

子供への暴力は許されない。しかし、育児ストレスと致死事件レベルの暴力を混同してはいけない。自分の子供を一、二度叩いたことがある親は多いだろうが、身体的虐待の目安となる、子供の身体に痣が残るか、その恐れがあるほど叩いた人となると話は全然違う。

「ただし、ストレスが慢性的かつ集中的にのしかかれば、誰にでも虐待は起こりえます。子育てへのこだわりが強い人や、生真面目な人ほど危ないと思います」(伊藤氏)