先日、爆笑問題の太田光さんにお目にかかってお話ししたときに、立川談志師匠が生前に太田さんに発したという、「達人のアドバイス」の真意を伺って、魂が震えた。
爆笑問題が売れ始めるかどうかの頃、談志師匠は、太田さんにこう言ったのだという。「おまえ、田中とは、絶対に別れるなよ」
爆笑問題のお二人の中で、太田光さんは、誰が見てもすぐにわかるような才気にあふれている。発想もユニークで、頭の回転が速い。相棒の田中裕二さんから離れて、1人でもやっていけるようにも思えてしまう。
では、なぜ談志師匠は、太田さんに、「田中とは別れるなよ」とアドバイスしたのか。それは田中さんが、「社会の良識」だからという。
太田さんのような才気あふれる人は、つい独走しがちである。すると、下手をすると世間が求めていること、大衆の常識から離れてしまう。
爆笑問題として、太田さんが何か突飛なことを言い、田中さんが「そんなことはないだろう」と突っ込む。そのような漫才を続けているかぎり、太田さんはバランスがとれる。談志師匠は、そのような趣旨を太田さんに伝えられた。
それから談志師匠は言われたのだという。「オレには、古典落語があるからな」。どんなに独創的で、ユニークな発想を持っていても、それだけではたりない。古典落語という「重し」があってこそ、自分という表現者が成り立つという、談志師匠の慧眼であった。
「達人のアドバイス」には、分野を超えて深く考えさせる力がある。自分の分野において、「外国語」に当たるものは何か。あるいは、「相棒」や「古典落語」に相当するものは何か?
原因と結果が直結しない、深い脈絡の中にこそ、「達人のアドバイス」の真価がある。