経営者企業である日本の大企業は、60年代以降のアメリカで顕在化した「株主反革命」を株式相互持ち合いによる株主安定化などで阻止するとともに、旧ソ連型企業と異なって企業間競争に勝ち抜くための従業員間競争を効果的に組織した。
こうして日本の経営者企業は、長期にわたる企業成長を達成し、その結果として、継続的な株価上昇と労働条件改善を実現することによって、株主利害と従業員利害を一致させることに成功したのである。
ところが、90年代初頭にバブル経済が崩壊すると、日本的経営は機能不全を起こすにいたった。日本的経営が元気をなくすきっかけとなったのは、80年代まで日本的経営の中心的な担い手であった経営者企業である大企業が、すっかり自信を失い、「株主重視の経営」を前面に押し出すようになったことである。
誤解を避けるために言えば、90年代以降の日本で、経営者企業である大企業が株主重視の姿勢をとること自体は、間違っていない。80年代後半から急速に進展した日本の資本市場の拡大と金融面でのグローバライゼーションによって、事業会社は資本市場から資金調達することを求められており、そのためには、株主重視の姿勢をとることが必要だからである。
問題は、株主重視と短期的利益の追求とを同一視し、経営者企業タイプの大企業の多くが、日本的経営のメリットである長期的視野をもつことを忘れてしまったことにある。
バブル経済崩壊後、経営者企業タイプの日本の大企業では、ROA(Return on Assets, 総資産利益率)やROE(Return on Equity, 株主資本利益率)を重視するアメリカ型企業経営への移行が盛んに追求された。90年代に「ニュー・エコノミー」を謳歌したアメリカでは、企業が積極的に投資を行い、A(Assets,資産)やE(Equity, 株主資本)を増やしながら、それを上回る勢いでR(Return,利益)を増大させて、ROAやROEの上昇を実現する戦略をとった。これとは対照的に、日本では、多くの経営者企業タイプの大企業が投資を抑制し、AやEを削減して、ROAやROEの上昇を図ろうとした。