経済再生の鍵を握る「新型日本的経営」

冒頭で紹介した『日本経営史』の改訂版(宮本・阿部・宇田川・沢井・橘川『日本経営史[新版]』有斐閣、07年)の「エピローグ」で明らかにしたように、90年代以降低迷する日本経済を再生させるためには、

(1)事業会社が、エクイティ・ファイナンスのノウハウを身につけること。

(2)金融ビジネスの改革を進め、(1)国際競争力をもつユニヴァーサル・バンクと、(2)きめ細かなモニタリング能力を発揮する優良地方銀行という、二本柱を確立すること。

(3)製造業が、高付加価値化と結びつけて、国際分業を深化させること。

(4)製造業とサービス業との新たな結合を実現すること。

(5)市場に潜在する民需を顕在化させるサービスビジネスや流通ビジネスを開拓すること。

という5つのシナリオを実現する必要がある。そして、そのためには、経営者企業が投資抑制メカニズムを克服し、日本的経営を再構築して長期的観点から投資を的確に行うことが求められる。

日本的経営再構築の要諦は、(1)~(5)の再生シナリオに沿って成長戦略を明確にし、中長期的に株主利害(株価上昇)と従業員利害(待遇改善)とを一致させることにある。的確な投資が行われ企業が成長すれば、株価上昇と待遇改善が同時に達成され、株主利害と従業員利害とが対立することはなくなる。人口減少に転じた日本では成長戦略をとることは困難だとの見方もあるが、目を世界に広げ、事業をグローバル展開すれば、成長戦略をとることは大いに可能である。

ただし、日本的経営の再構築は、もとの姿への単純な回帰であってはならない。従来からの長期雇用を維持する一方で、年功制については根本的に見直し実力主義を導入するなど、改革を断行する必要がある。

日本的経営は、長期雇用と年功制が並存した「旧型日本的経営」から、長期雇用に重点をおき年功制には重きをおかない「新型日本的経営」へ、変身しなければならない。「新型日本的経営」をとる経営者企業が長期的観点から的確な投資を行い、事業をグローバル展開するようになったとき、日本経済の再生は真に達成される。本稿の冒頭で自己批判した筆者ではあるが、この際、もう一度、日本企業が投資抑制メカニズムを克服し、危機突破能力と問題解決能力を発揮することを期待したい。

(平良 徹=図版作成)