ROAやROEの上昇という同じ目標をめざしながらも、日米両国の企業は投資に対して正反対の姿勢をとったのであり、バブル経済崩壊後の日本では、「投資抑制メカニズム」とでも呼ぶべきものが、きわめて深刻に作用した。

経営者企業タイプの日本企業では、企業本来の職務である投資を十分に行うことができない萎縮した経営者の姿と、投資抑制による企業の生き残りに対して積極的に協力する正社員従業員の姿とが、観察された。長期的な視野をもち必要な投資を的確に行うという日本的経営のメリットは、影をひそめたのである。

バブル経済崩壊後の日本で、長期的な視野に立ち、必要な投資を的確に行ったのは、むしろ、所有者が経営の主導権を握る資本家企業のほうであった。成長局面から停滞局面への転換のなかで、バブル経済崩壊後の日本では、日本的経営の主たる担い手が、経営者企業から資本家企業へ、変化をとげたと言える。

しかし、日本の大企業のなかで多数派を占めるのは、あくまで、経営者企業であって、資本家企業ではない。経営者企業において投資抑制メカニズムが克服され、長期的観点から必要な投資が的確に行われるようにならない限り、日本経済全体の再生はおぼつかない。その意味で、「失われた20年」から脱却し日本経済を再生させる鍵を握るのは、経営者企業における日本的経営の再構築なのである。