「西武とは場馴れしているかどうかの差が出た」
だが、王は強気の姿勢を崩さなかった。第4戦、不振だった4番・原(三塁手)と6番・篠塚(二塁手)にホームランが出て、4対0で勝利。2勝2敗のタイにすると、こう語った。
「これでシリーズの流れが変わる。最後は、巨人のものです」
森にとっては、東尾修、工藤、郭の三本柱を使えないローテーションの谷間であり、負けは織り込みずみであった。
シリーズ前、王が胴上げを目論んだ第5戦は、ライトのジョージ・ブコビッチや二塁手の辻発彦の美技にチャンスを阻まれ、先発した東尾と抑えに回った工藤を攻略できず、1対3で巨人が敗れた。
第6戦は、センターを守るクロマティの緩慢な送球癖を見抜かれ、4番・清原和博(一塁手)と2番・辻に好走塁を許し、またしても1対3で敗れ、西武が日本一に輝いた。
敗軍の将、王は負け惜しみを口にした。
「西武とは場馴れしているかどうかの差が出た。力負けではない」
対照的に森は微笑を浮かべていた。
「野球は打つことでだけでなく、守りや走塁にも大きな価値があることをファンにアピールできた。それが何よりうれしい」
美学に憑りつかれ、一敗地に塗れた王が、コペルニクス的転回を遂げるのは、巨人を去り、ダイエーの監督に転じてからである。
2507試合 1315勝1118敗74引き分け 勝率5割4分0厘
(文中敬称略)※毎週日曜更新。次回、長嶋茂雄監督