――つまり、デジタルの数字のデータは、人間のアナログの力が加わって、初めて意味を持ち、成果に結びつくというわけですね。

【鈴木】話は飛びますが、東日本大震災が発生した2011年(平成23年)の夏、電力の供給不足への対策として、東京電力および東北電力管内で7月1日から、大口需要家については、前年の夏と比べ、15パーセントの電力使用制限が義務づけられました。これに対し、数多くの店舗を展開するセブン-イレブンでは自主行動計画を策定し、義務とされる15パーセント削減を上回る最大25パーセント削減という非常に高い目標を設定しました。

この目標をどのように実現するか。1つは本部負担による設備の入れ替えです。屋根に太陽光発電パネルを設置する。店内照明や店頭の看板照明を蛍光灯からLEDに交換する。チルドケースなどを省エネタイプに入れ替える……等々。しかし、こうした新しいハードやシステムによる節電対策では、約10パーセントの削減が限界でした。

残る15パーセント減をどのように達成するか。その期待を担ったのがスマートセンサーの設置でした。配電盤の中にあるブレーカーの配線に取りつけると、店内の設備ごとの電気の使用状況を細かくモニターできるセンサーです。使用状況は店舗のバックヤードにあるストア・コンピュータの画面に表示されます。

このスマートセンサーを設置したねらいは、電気の使用状況を「見える化」することによって、加盟店店主を始め、パートやアルバイトのスタッフ1人ひとりに「気づき」を与え、意識

を高めて、省エネに積極的に取り組んでもらうためでした。なぜなら、仮説・検証は、節電対策においても成り立つと考えたからです。

省エネの工夫はいろいろ考えられます。複数ある空調のうち、店内がどのようなときにどれだけ空調をオフにできるか。店内の温度も、外から入ってきたお客様の体感温度で考えたとき、何度が適温か。揚げ物を揚げるフライヤーも、調理時間をどう調整すれば、消費電力を抑えられるか。仮説を立て、実行し、結果をスマートセンサーのデータで検証する。省エネの方法の仮説・検証を繰り返すことで、電力使用を25パーセント削減することができたとすれば、これも1つの改革になります。

ハードやシステムの導入は、やろうと思えば、どの企業でも同じようにできます。そこから先、より大きな成果を生み出すには、ハードやシステムを運用する人間1人ひとりが、仮説・検証により、常に新しいことに挑戦し、現状を改革していこうという意識を持てるかどうか、日々の取り組みにかかっているのです。セブン-イレブンの平均日販の高さはそれを示しているように思います。

新しいことは、ある日いきなり、「やろう」と思ってもできるわけではありません。セブン&アイ・ホールディングスでは、誰もが常に仮説・検証によって、新しいことに挑戦することが求められます。大切なのは、日々の小さな改革でもいいから、それを当たり前のように挑戦し、実践する意識が、メンバー1人ひとりに埋め込まれていることです。そうした日々の積み重ねがあるからこそ、セブン-イレブンの世界的なブランド強化といったグローバルな改革にも挑戦することができるのです。

『新装版 鈴木敏文の統計心理学』(プレジデント社)

[著] 勝見 明

セブン-イレブンはなぜ、ライバルより日販が20万円も高いのか?それは「ビッグデータ」をどう捉えるかという鈴木敏文の「統計学」に理由があったのだ……。

(インタビュアー=勝見明 撮影=尾関裕士)
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