セブン-イレブンでアルバイトをするとなぜ、3カ月で経営について語るようになるのか。
「オリンピック選手を育てるとき、コーチは選手をとことん追い詰めるといいます。ビジネスも同じです」
と鈴木氏はいう。アルバイトにも発注を任せ、“竹刀”ではなく、“真剣”を持たせて仕事をさせる。発注がうまくできなければ、廃棄ロスと機会ロスのいずれも生じるため、まさに真剣勝負の世界だ。
前出の『カンフー・パンダ』のゾウガメの老師の言葉を借りれば、アルバイトたちは明日の顧客ニーズがミステリー(未知)であるほど、ヒストリー(過去)に頼らず、挑戦し、そのギフト(賜物)として、鈴木流経営学を身につけていく。
では実践を通して何を学ぶのか。「逆転の発想術」「マーケティングの極意」「ビジネス心理学」「情報術」「仮説の立て方」の5科目に分け、履修してみよう。
【1】逆転の発想術
―「おいしいもの」より「飽きないもの」をつくれ
鈴木流経営学の第一の特徴は、既存の概念を覆す逆転の発想にある。われわれは通常、「顧客のためにおいしいものを提供し続けなければならない」と考える。しかし、鈴木流経営学ではこの発想を続ける限り、商売はジリ貧に陥る。問題は「顧客のために」と考えること自体にある。
「“顧客のために”と考えるときはたいてい、過去の経験をもとに、“うちの顧客はこういうものを求めている”という思い込みがある」
と鈴木氏はいう。思い込みの結果、コンビニの店頭にいつも同じ商品が並び、マンネリ化して飽きられる。それを避けるため、鈴木氏が求めるのは「顧客のために」ではなく、「顧客の立場で」考えることだ。すると、「おいしいもの」でも続けて出されれば「飽きるもの」に変わるという陰陽両面の意味に気づく。
いつも同じ品揃えではなく、例えば、明日の天気予報が雨で肌寒そうなら、「おにぎりの種類も、とり五目のような、味が濃いものを多めに揃えてみよう」と考える。すると、品揃えに変化が生まれる。
「顧客の立場で考え、飽きられないものを提供し続けなければならない」――これが正解の発想だ。