同時に、答えの出ないことについて考えていないかを検証することも重要だ。アプローチのしようがない問いの立て方は、結構世の中に溢れているものだ。「未来を予測せよ」というのがその典型。そもそも未来は予測不能なものであり、預言するならばともかく、正確な予測など存在しえない。
一方、未来を左右する大きな変数は何であるかを洗い出し、その変数の振れ幅の中で現実的にどのようなシナリオが考えうるかを見極めることであれば十分可能である。
神保社長の「どうすればD社に先制できるのか」という問いも、現実的な答えを出すことが困難な問いのひとつだ。そもそもC社は「遅い会社」なのだ。遅いから先制できないのだ。そんな会社がいくら先制攻撃の仕掛け方を考えても、答えは出ない。トラックがスポーツカーより速く走らないのはなぜか、と問うているのと同じことである。
さて、こうして考えてくると、神保社長の発言のほとんどがイシューたりえていないことがわかる。もし、神保社長の発言の意図が「D社との競争に勝て」ということだとすれば、回答可能でしかも意味のある解が期待できるイシューは、
「D社が得意とする先制のゲームとは異なる方法で、競争優位を確立するにはどうすればよいか」
ということになる。これは、アップルの販路構築を想起してみるとわかりやすい。
「PC販路のメーンである大型量販店のPC売り場のほとんどが既存の大型メーカーによって占められている中、ここで金をかけ、片隅の売り場を押さえることが本当に正しいのか。直接市場にアップル独自の価値と世界観を伝えるべきではないか」
おそらくこれが、アップルが直営アップルストア構築に向かう前にまず立てたイシューであったはずだ。
「無謀だ」「コスト的に採算が合うはずがない」と多くの人がいぶかしく思った直営店が、値引きすらしないにもかかわらず、大きく成功し、世界の主要都市に幅広く展開していることは皆さんがご存じのとおりだ。