原則[3]顧客の潜在的な欲望を的確にとらえる

【鈴木】顧客の支持を得て、利益を得ようとするとき、忘れてならないのは、人間の欲望は常に変化するということです。これを固定的にとらえると、「コンビニの店舗数が増えているのだから市場は飽和している」という考え方に陥るのは今述べたとおりです。

では、人間の欲望の変化はどのようにとらえればいいのでしょうか。大きなポイントは、すでに表れている顕在的な欲望に対応する以上に、潜在的な欲望を掘り起こすことです。

例えば、コンビニは夏場の暑い日には、清涼飲料や氷菓などがよく売れ、全体的に売り上げが伸びます。同じ夏でも気温が少し下がると、売り上げは落ちます。しかし、気温が少し下がったからといって、人間の欲望がなくなるわけではなく、下がったなりに欲望は変化します。そこで、気温が下がっても売れる商品や売り方を考えれば、気温の変動に左右されない体質をつくることができます。

一例をあげれば、コンビニのおでんです。おでんは寒いときに売り、暑いときは冷たいものを売るといった固定観念に縛られると、顧客の欲望の変化をとらえることはできません。夏場でも気象情報から、ちょっと気温が下がり、涼しく感じる日が続くようであれば、おでんの販売を仕かけてみる。顧客は「この店は客の皮膚感覚を知っているな」と感じ、潜在的な欲望を刺激されて手を伸ばす。

人間の欲望は常に変化することをすべての前提にすれば、「夏の涼しい日は儲からなくても仕方ない」といった言い訳は通用しなくなることを肝に銘ずべきでしょう。

セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長兼CEO 鈴木敏文
1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設。2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEO就任。05年より現職。
(相澤 正=撮影)
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