「顧客満足度」で1位を独走しているビジネスホテルがある。全国に37の直営ホテルを展開する「リッチモンドホテル」は、リピーター比率が6割に達するなど常連客の満足度が非常に高い。さらに正社員の6割が「アルバイト上がり」で、従業員のロイヤリティも高い。ほかのホテルとなにが違うのか。その秘密を探った――。

「東京・下町」らしい朝食も提供

平日の朝8時過ぎ――。東京の下町・浅草にある「リッチモンドホテル プレミア浅草インターナショナル」のラウンジには、三々五々、宿泊客が朝食を食べにやってくる。

ホテル自慢の朝食は、和食・洋食を取りそろえたビュッフェ方式。これだけなら珍しくないが、ホテルの立地によってメニューに地域色を打ち出すのが特徴だ。取材日のメニューには、すしや天ぷらもあった。これらは浅草の食文化を意識した内容だ。

「プレミア浅草インターナショナル」の朝食ビュッフェ(編集部撮影)

「北海道から沖縄まで直営で37店舗ありますが、食事内容はすべて違います。たとえば山形では山菜そばや芋煮、名古屋はみそカツや天むす、大阪ではバッテラすしやたこ焼き、長崎では皿うどんや地元で捕れたアジのみりん干しなどもそろえています。郷土色を強めて、お客さまの『その土地ならではの食を味わいたい』というご要望にお応えしてきました」

こう話すのは、運営会社アールエヌティーホテルズ社長の成田鉄政氏だ。2011年の就任以来、自社の強みを見直し、従業員の提案を受け入れながら、顧客満足度を高めてきた。「プレミア浅草インターナショナル」開業は15年12月と新しいせいもあるが、内装や雰囲気、そして朝食内容は、都心の高価格帯シティーホテルと遜色ない。

ロイヤルHDの調達力を生かす

ここまで凝った朝食メニューを提供できるのには理由がある。実は同ホテルは、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」や「シズラー」を展開するロイヤルホールディングスの子会社なのだ。ファミレスのほか、羽田や成田、関西、福岡など国内主要空港にレストランも構え、スケールメリットで一括調達できる食材調達力が、同ホテルの味覚を支えている。

アールエヌティーホテルズ・成田鉄政社長(編集部撮影)

ロイヤル創業者の江頭匡一氏(故人)は終戦直後、米軍基地でコック見習いをした後に同社を起業した。戦勝国・米国の豊かさの象徴だったレストランを日本に浸透させた創業者には、「憧れだったものを手の届く価格で実現する」という経営哲学もあり、それがホテルにも反映されている。成田氏も若い頃は江頭氏の哲学を学んだという。

「ホテルチェーンの経営母体は、建設、不動産、電鉄系が運営しているケースが多い。日本では当社グループのような飲食系が運営するケースはありません。だからこそ朝食内容で負けるわけにはいかない。チェックアウト直前に食べる朝食は、宿泊客の印象に残ります。“最後のおもてなし”に注力すれば、お客さまの評価も高くなるのです」(成田氏)

事情で朝食が食べられなかったお客には、「リッチモンド特製フルーツケーキ」を渡す。これも好評を博しているという。「自社開発して現在は年間3万個も出ます。『朝食を提供しないで得た利益は正しい利益なのか』という発想から、お客さまに還元するようにしました。自宅に持って帰られると家族の方も喜ばれる。結果的に当ホテルのイメージアップにつながります」(同)

こうした取り組みが、各種の調査結果の高評価につながっている。「2017年度 JCSI (日本版顧客満足度指数)調査」(公益財団法人日本生産性本部)では、ビジネスホテル部門で顧客満足度1位を獲得。同調査の6項目中、顧客満足・顧客期待・知覚品質・知覚価値・推奨意向の5項目で1位という圧倒的評価を得ている。また、「2016年 日本ホテル宿泊客満足度調査」(JDパワーアジアパシフィック)では、「1泊9000~1万5000円未満部門」においてベッセルホテルズと同率1位を獲得。こちらは15年、16年と2連覇を果たし、10度目の1位を獲得したことになる。