「不満解消」と「不満の先取り」
もちろん、食事内容と接客業務を高めるだけで「満足度1位」になるわけではない。同ホテルが意欲的に行う施策がある。キーワードでいえば「不満解消」と「不満の先取り」だ。
「不満解消」の取り組みでは、会員へのグループインタビューやアンケート調査がある。そこでの結果を受けて、たとえば歯科医師の助言で磨き残しがないよう改良した歯ブラシの柄の形を、「磨く時に液垂れがする」との指摘を受けてさらに改善した。部屋の消臭剤を、メーカーと共同開発したこともある。利用客の細かいストレスを改善するのだ。
また「不満の先取り」としては、現在進める「スマートフォン無料レンタルサービス『handy』」の導入がある。「handy」は客室備え付けのスマートフォンで、国内・海外通話ともに使い放題。滞在中はホテルの外に持ち出して、通話やネットをすることもできる。特に海外通話料金が気になる外国人客に好評だという。今年8月にプレミア浅草を含む5施設に先行導入し、11月上旬には全ホテルに拡大予定だ。
キーワードは従業員の定着にも応用可能
2つのキーワードは、従業員の定着に向けても応用できる。実はリッチモンドホテルは、正社員の6割がアルバイト上がり。バイトからキャリアを積み上げ、支配人になる人は珍しくない。「handyの導入」を経営陣に提案したのも、アルバイト出身という30代の女性支配人だった。
「ホテルは離職率が高い業界ですが、従業員の意欲を高め、上司が不平・不満とも向き合えば定着率も上がります。離職率も業界ではかなり低いと思います」(成田氏)
現在は視界良好のリッチモンドホテルだが、不安要素がないわけではない。新規のビジネスホテルは次々にでき、東京都内では2020年の東京五輪を前にして、すでに優劣がつき始めている。「民泊」の存在も脅威だ。統計によれば、インバウンド(訪日外国人客)のうち、大阪地区では5人に1人が民泊だという。
「民泊を選ぶ動機に、気づかされることも多い。たとえば家族や親戚など大人数で来る外国人客には、複数のベッドルームがない国内のビジネスホテルは需要を取り切れません。快適性とのバランスで『1室に何人泊められるか』の検討余地も出てくるのです」(成田氏)
限られた予算で泊まる消費者の「どこの/なんの要望に応えるか」を求められるビジネスホテル業界。結局、事業予算の選択と集中を行い、不満解消や不満の先取りと誠実に向き合った企業こそが「顧客満足」を上げられるのだろう。
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。10月下旬に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)が上梓される。