受験生が宿を確保するのもままならないほど「ホテル不足」の福岡。それでも、ラブホテルの経営は甘くないようだ。需要のピークとされたバブル期から30年近く。この間、少子化で若者の数は減り、廃虚となった施設も。観光立国を目指す政府は普通のホテルへの転換を後押しするが、資金や利用者の心理的な“壁”が立ちはだかる。生き残りの鍵は自己否定につながる「脱ラブホ」なのか。

※当記事はqBiz 西日本新聞経済電子版の提供記事です

「ラブホだろ」と炎上

「えっ、これで1泊6000円?」。福岡市・天神周辺のホテルに1人で泊まった中年男性は、あまりの安さに驚いた。

「ビジネス利用が増え始めた」という福岡市内のラブホテル=福岡市博多区竹下2丁目

法事のため東京から福岡へ帰省。交通の便がいい中心部に泊まろうとインターネットで探した結果、「破格」のホテルを見つけた。

料金は地方のビジネスホテル並み。それなのに部屋の仕様はまったく違った。ベッドは広く、テレビも大きい。トイレと風呂は別々で、しかもリゾートホテルのように洗練されていた。2泊3日の日程で滞在した男性は「また泊まりたい」と気に入った様子だ。

実は、ここは元ラブホテル。10年ほど前、普通のホテルに業態転換した。壁や天井を彩った青やピンクの「どぎついカラーリング」(支配人)をやめ、白と黒を基調にした落ち着いた雰囲気に変えた。

ダブルベッドやマッサージチェアなど通常のビジネスホテルにはない「ぜいたく品」(関係者)を備えた寝室。トイレと風呂は別々で、サウナもある=福岡市博多区の「ホテルエリス」

現在、「業績を伸ばしている」というが、道のりは平坦ではなかったようだ。

ネットの予約サイトにホテルの情報を載せたところ、次々にクレームが書き込まれた。昔の業態を知る人たちとみられ、「ここってラブホだろ」「何で宿泊サイトに載っているんだ」などと炎上したという。

当時、玄関ロビーにはラブホテルの“象徴”とも言える部屋選びの大型パネルがあった。ホテル側は早速撤去。「脱ラブホ」(支配人)を徹底したところ、書き込みはなくなったという。

室内に併設されたサウナ。「サラリーマンの疲れを癒やしてくれる」と好評らしい

訪日外国人客の急増もあって、今は福岡のホテル業界にも追い風が吹く。

支配人は振り返った。

「あのままだったら今ごろダメだったかも」

大型投資に二の足?

総務省統計局によると、バブル期の1990年は3300万人を超えた20~30代の人口は、2016年に2800万人を下回り、2割近く減った。「ラブホテル市場が縮小した」といわれるゆえんだ。

普通のホテルに転換するには大きな投資がいる。営業許可が風営法から旅館業法に変わり、対面式のフロントなどを設置する必要があるためだ。