中国人旅行客のうち訪日はわずか2%

訪日外国人旅行客、いわゆるインバウンドの勢いが急加速している。2015年の訪日客数は過去最高だった14年の1341万人の約1.5倍、2000万人到達が視野に入った。旅行消費額も14年の年間2兆円強が、15年は3兆円を超える見通しだ。

「今後も20年の東京オリンピックに向け、訪日客は増え続けます」

インバウンド専門の研修、コンサルティングを手がける「やまとごころ」の村山慶輔社長はそう予測する。

「一番多いのは中国人旅行客です。中国全体の海外旅行者は昨年は約1億1000万人ですが、日本にはそのうちのわずか2%しか来ていません。中国人旅行客もまだまだ獲得できます」

今後は「団体客から個人客化への流れ」も本格化するという。外国人旅行者が増えたとはいえ、昨年は世界22位、アジア7位だ。政府の掲げる目標「2020年までに3000万人」に向け、どう対応するか。ここに紹介する「ドン・キホーテ」は「弱み」を「強み」に変え、インバウンド界の「勝ち組」となった。その成功の秘訣を探る。

中国の旅行会社の認知度ゼロ

中国人旅行客の爆買いの光景の代表格といえば、家電量販店「Laox」や、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」が思い浮かぶが、「Laoxはターゲットが団体客、ドンキは個人客で対照的」と前出の村山氏はいう。

団体客が対象の店はツアースケジュールに来店を組み込んでもらうかわりに、旅行会社やガイドに手数料やキックバックを支払う。ドン・キホーテには、それが難しい事情があった。

「ドン・キホーテは無駄をそぎ落とし、1円でも安く提供するディスカウントストアです。キックバックの原資などない。ビジネスモデルが違うのです」

と話すのは、同社でインバウンド対応のプロジェクト責任者を務め、13年からはノウハウを社外にも広めるため、社内起業してJ.I.S.(ジャパン インバウンド ソリューションズ)を設立した中村好明社長だ。

ドン・キホーテは08年に旅行客からの要望を受け、中国人の大半が決済に使う銀聯カードを導入して以降、全店での免税対応、多言語のHPや店舗POP、訪日外国人客専用コールセンター設置、無料Wi-Fiなど、いち早く受け入れ環境を整備してきた。今や訪日客の来店は急増し、14年のインバウンド売上高は年間400億円と7年間で40倍だ。しかし、7年前に中村氏が責任者に就いたとき、中国の旅行会社における同店の認知度はゼロだったという。現地の旅行博覧会に出展すると、配ったパンフレットはゴミ箱に捨てられ、「悔しい思い」をした。

団体客用キックバック原資もなく、知名度も低い。ゼロから始めて7年、その足跡をたどると、「点」から「面」へ、「地域連携」への戦略の進化が浮かび上がる。

(上)ドン・キホーテ新宿店の外観。免税の看板やのぼりが目立つ。(左下)ジャパン インバウンド ソリューションズの中村好明社長。現在ではドン・キホーテグループだけでなく、国、自治体、民間企業のインバウンド分野の相談や教育などにも携わる。(右下)店内には、日本語、中国語、韓国語、タイ語で書かれた商品ポップを設置。