休眠層を掘り起こす

さらに、最初にターゲットを認識させたことは、次ページ以降の検証データを、読んだ人の頭にすんなり入れやすくする効果もあった。

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「メッツ コーラ」誕生の軌跡

いくつかの検証を行ったところ、有糖コーラの1カ月の飲用率は大学生男子が最も多いが、20代、30代では減少することがわかった。一方、糖分ゼロ、カロリーゼロのゼロ系コーラの1カ月の飲用率では40代が最も高くなっていた。また、30代以上の男性層は全般的に健康への意識が向上してトクホ飲料の飲用率が上昇し、中心支持層となっている世代であることも判明した。

これにより、もし糖類ゼロに加えて、脂肪吸収を抑える“プラスの価値”があるトクホのコーラがあったら、これまでコーラから離反していた層や、長い間休眠していた層を掘り起こすことができる、という仮説が完成した。

発売後の調査では、購買層の3~4割を30代から50代の女性が占めていた。狙ったターゲットの的中に加え、予想外の層にも響いたことが爆発的ヒットの要因だろう。

中田氏は、社内の壁を突破できたのは、「明確なターゲットが存在したことと、それを企画書の最初のページできちんと打ち出したこと」だと断言する。最終的な発売を決める経営会議から戻ってきた上司は中田氏に向かって「チャンスがある商品だから広告も含めて大々的にやろうじゃないか、という話になったよ」と声をかけてくれたという。

味はトクホだからといって甘味を抑えず「誰もが想像するおいしいコーラの味」そのままに。価格も「トクホ価格」ではなく同サイズの飲料とほぼ同じ150円に設定した。パッケージもコーラの王道の、赤や黒をベースにしたバタ臭いイメージで統一。ターゲットはあくまでも「30代、40代のコーラ好きな男性」だったため、あえて奇をてらうことはしなかったのだ。

ネーミングの「メッツ コーラ」は同社が1979年に発売したヒット商品「メッツ」から名づけた。トクホ×コーラという目新しい商品ではあるが、キリンを代表するブランド名に熱い思いを込めて真っ向勝負したことが予想を上回る大ヒットにつながった。

キリンビバレッジ マーケティング部 中田康陽
1999年キリンビール入社。営業から2005年、マーケティング部に異動。08年よりキリンビバレッジに出向し、現職。新商品開発に携わる。
(澁谷高晴=撮影)
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