コーラといえばパンチの効いた甘さと強い炭酸がクセになる刺激的な味でおなじみ。若者を中心に、言わずと知れたロングセラーの国民的飲み物だが、同時に「太るのでは」「体によくないのでは」といったマイナスイメージもある飲み物だ。コカ・コーラとペプシコーラという2大ブランドが市場を占有する牙城でもあり、「そこに、あえてキリンが挑戦するのか?」という不安もよぎった。
だが同時に、冒頭のセリフのように「コーラを飲みたいけれど我慢している」のはまさに30代の中田氏自身の姿でもあり、「トクホにできれば、健康を気にせずもっとコーラを飲めるんじゃないか」とひらめいた。ほかのマーケティングメンバーも20~30代の男性が中心で、それぞれ思い当たるフシがあったためか、全員が中田氏の意見に同意した。
市場調査の一環としてグループインタビューを実施した際も同様の意見があちこちから聞かれ、「やっぱりそうか。こういう人たちに向けてトクホのコーラを出せたらすごいボリュームの市場が出来上がるんじゃないか」と背中を押された気がした。
早速、社内プレゼン用の企画書作りに取り掛かった。中田氏は通常、企画書の1ページ目には市場が置かれている状況説明を書き、結論としてターゲットを最後に記す。しかし、今回の商品では、「こんな層に売り込みたいんだ」という思いをのっけから訴えることにした。
「トクホのブームは過ぎ去っていましたし、コーラの2強が君臨する中で、本当に下火のトクホ市場にわが社が打って出られるのか? そもそもコーラを飲んでいる人は最初からトクホなんか求めないんじゃないか? というネガティブな意見が上司から出るかもしれないと予測していました。そうした意見を打破し、社内を説得するためにも、ターゲットを明確にし、それを資料に反映させることが欠かせなかったのです」
中田氏は、どんな企画も初めに「どういう人が・どんなときに」飲むかを考えるという。しかし、そのターゲットやシチュエーションがあまりにもニッチな場合、上司に企画を説明した段階でハネられていた。だが今回は、ターゲットがすなわち商品コンセプトで、そこに共感を得られれば企画は必ず通ると確信していた。そのため、まず企画書の1枚目でターゲットを提示し、共感を喚起させる必要があったのだ。