もう1つ心に染みついたのはトップの孤独さだった。撤退の際、社長職にあった上司は悩みに悩んでいた。住友商事の関連会社なら潰れることはないだろうと入社した社員もいたはずだ。その会社を閉める。自らの辞職まで考えていた。決断するときはたった1人。上にいくほどリーダーには孤独と不安がつきまとう。
僕自身そうだった。プラザ社再生では、思いが伝わったからみんな頑張ってくれたとはわかっていても、もしかすると社長が言ったからやってくれた面もあるのだろうかと、不安もよぎった。その不安を払拭してくれたのが、僕を怒ってくれた若い社員たちだった。思いを理解してくれた上司がいたように、思いを受けとめてくれる部下がいる。なんて恵まれた男だ。「部下は仲間だ」と心底思えた。3年前、資源・化学品部門の部門長に就いてからは月に2回、現場社員も含めて10人ほど集め、酒を酌み交わしながら車座で語り合う場を続けた。各本部長とのミーティングも相手の部屋に出向いた。自分から動けば周りにも顔が見える。社長就任後も続けるつもりだ。
思いの理解者がそこにいて、人と人がつながっていれば、会社は50年、100年続く。座右の銘「まことに日に新たに、日々新たに、また日に新たなり」は「今日より明日をよくしよう」の意味だが、今日を精一杯生きなければ明日はよくならない。思いを伝え、仲間を元気づける。それを社長業の基本として、日々精一杯生きようと心を新たにしている。
1950年、大阪府生まれ。府立八尾高校卒。74年大阪大学経済学部卒業、住友商事入社。2005年執行役員、07年常務執行役員、09年専務執行役員、12年4月取締役副社長執行役員、12年6月より現職。