一般的に学習時は頭部が寒くて足元が暖かい状態がいいといわれていますが、建築でそれを実現する方法はいろいろあります。簡単なのは床暖房ですが、予算的に難しければ1畳分だけ電気カーペットを敷いて対応してもいい。あるいは部屋の状況を見て、北向きの部屋なら窓から冷たい空気が入るのを防ぐため、窓の横にパネルヒーターを置くのもいい。そういった提案の引き出しをたくさん持っている建築家なら、信用できるといっていいでしょう。
「衝立」で間取りを変える
場面を形に落とし込むのは自分でも可能です。ふすまを外したり衝立(ついたて)を置いたりして間取りを変えてもいいし、場面に合わせて照明を変えてもいい。環境心理学では、暖色系の照明はコミュニケーションを促し、寒色系は集中を促すことがわかっています。もっとも照明の効果にも個人差があり、赤っぽいほうが集中できる子供もいます。そこは子供と一緒に実験して確かめればいいのです。
建売住宅や集合住宅の場合は、場面を具体的に思い浮かべながら選ぶことが重要です。家の中に算数の問題に集中して取り組めるコーナーがあるか。ニュース解説などメディアを通じて刺激を受けられる場面や、子供と一緒に空を見上げて星の話をする場面をつくることができるか。これらはほんの一例ですが、場面リストを用意して物件を選ぶのです。
もっとも、すべての場面を家の中につくる必要はありません。星が見えにくいのなら近所の公園に出かけてもいいし、集合住宅で庭がないなら共有スペースの花壇で植物を観察してもいい。あるいは勉強に集中する場面も、近所の図書館で代用できるかもしれません。家の外の環境を含めれば、場面は多様につくれるはずです。
家というと、とかく広さや間取りなどの形に目が行きがちです。しかし、まず場面があってこそ、それを実現するための形が見えてきます。住まいの空間を考えるときは、この順序を忘れないでほしいです。
1967年福岡県生まれ。東京大学工学部建築学科を卒後、同大学院修士課程修了、博士課程単位取得退学。東京理科大学工学部建築学科助教授などを経て、現在、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。専門は建築計画・住宅地計画。著書に『集合住宅の時間』(王国社刊)がある。