サラリーマン個人の生き方も経済全般の変化と無縁ではない。これまで日本のサラリーマンの報酬は、為替にたとえると「固定相場制」であった。戦後しばらくの間、国際的な経済環境がどのように変化しようと、為替相場は1ドル=360円で固定していた。サラリーマンの報酬もそれと似ていて、入社年次による年功序列型の給料が大部分を占めていた。
ボーナスの支給額も全社的に「基本給の○カ月分」とされ、平等であった。抜群の成績を挙げた人でも上乗せ分は10万円とか20万円にすぎず、同期の間では年収に大きな差はできなかった。
悪くいえば、やってもやらなくても報酬は同じ。それが年収固定相場制の時代だった。
一方で、タクシー運転手などの職業は、いまも昔も「変動相場制」だ。会社によって規定は異なるが、タクシー運転手の場合は売り上げの5割が自分の取り分で、残りは会社に納めるのが一般的だ。お客を乗せて料金を稼ぐほど自分の収入も増えるという、シンプルな仕組みである。
水商売も同様で、銀座のクラブなら売り上げの3割がホステスに入り、やはり売り上げを伸ばすほど収入が増える。ただし、自分のお客に貸し倒れが発生したら、その分はホステスが被らなければならないという習慣がある。また、ドレスや着物代といった経費を自分で持たなければならないのは大きな負担だろう。
不安定でリスクが高い半面、本人の努力と工夫によっては収入を大きく伸ばすことができる。ほんの20年ほど前まで、こうした年収変動相場制は一部の職種に限られる例外的なものだった。一般的なサラリーマンは、安定した固定相場制の価値観で生きればよかった。
ところが、そのサラリーマンの世界もここへきて変動相場制に近づいてきている。従来の年功序列給を改め、実績給の仕組みを取り入れる会社が増えたのだ。