「江戸時代の発想」を捨てなければならない
これと似ているのはアメリカの雇用形態だ。年収変動相場制が根付いているアメリカ企業では、途中で入社してチャンスをつかむ人が多い一方、職を失うリスクが高いのも日本企業の比ではない。
アメリカ企業の管理職は、上司からたった3語「You are fired」(君はクビだ)と申し渡されただけで、その日の夕方までに荷物をまとめてオフィスから出ていかなくてはならない。非管理職なら労働組合に訴えることもできるが、管理職にはそれもできないのだ。
この先、日本企業でも年収変動相場制が浸透し、正社員も非正社員もないフラットな雇用契約が実現するとしたら、誰もが「来年は会社にいられないかもしれない」というリスクに直面する。
すると、いまの時点で「年功序列型で給料の水準が高く、業績が安定している会社」に勤めているとしても、将来的にはまったく安心できないということを覚悟しておいてほしいのだ。
年功序列と終身雇用を前提として、高額な住宅ローンを組んでいる人は多いと思う。もし年収が下がったり、職場にいられなくなったりすればローンが返せなくなるおそれがある。しかし、厳しいようだが、年功序列・終身雇用という前提は古い時代の特殊な環境によるものだ。普遍的な前提ではないということを意識しておかなければならない。
大事なことなので、この点はとくに強調しておきたい。社会は常に変化し、それにあわせて生き方も変わっていく。その意味で、われわれは「江戸時代の発想」を捨てなければならないのだ。
250年もの間、環境変化のなかった江戸時代は世界史的には稀有の時代である。鎖国をして技術革新をやめ、身分制度を固定化し、そのため社会環境が何世代にもわたって変わることがなかった。
しかしそれは、グローバル化が進み、技術革新が間断なく続く現代にはふさわしくない考え方だ。
私たちはもう江戸時代には戻れない。目を開いて、変化の行く先を見つめるべきなのである。
1945年生まれ。69年東京大学法学部卒業、同年読売新聞社入社。73年三菱商事入社。80年ハーバード大学経営大学院でMBA取得。81年ボストンコンサルティンググループ入社。89年同社社長。2000年ドリームインキュベータを設立し、06年から会長。