2011年3月11日に発生した東日本大震災、福島第一原子力発電所事故は日本人の生活観・労働観を大きく変えた。この未曾有の大災害の後、私たちの進むべき道はどこにあるのか。
ドリームインキュベータ会長 
堀 紘一氏

国や個人が手をこまねいていれば、日本の没落は早まる。以下は私が考える3年後の「悪いシナリオ」である。

これまでの日本社会は「安全」「清潔」「高コスト」が特徴だった。規制が多く労働のコストはかさむが、政情は安定し、まじめで良質な労働力に恵まれ、街は清潔で、停電のない電力供給など高度なインフラが整備されている。そのため、コストに敏感なグローバル企業も一定の工場を日本国内に立地させていたのである。

ところが、3.11を受けて「安全」という大事な要件が吹き飛んでしまった。旧ソ連のチェルノブイリに匹敵する最悪級の原子力事故を引き起こしたばかりか、解決の目処が立たないからである。少なくとも外国人の目から見ると、日本は安全とはいえない。原発の停止が相次いだことで、電力供給も一気に不安定化してしまった。

日本社会を支えていた好条件が一気に反転した。企業にとっては日本に工場を置いているメリットが見えなくなってしまったということだ。それでなくても、海外への工場移転はここ20年で急速に進んでしまった。このままでは一段と空洞化のスピードが増すだろう。

グローバル企業の立場で考えればよくわかる。日本に工場を置いておく合理的理由がなくなれば、彼らはその分を海外へ移す。企業は繁栄を続けるかもしれないが、日本国は雇用が減り税収も減るので衰退するしかないだろう。

政府が何も手を打たなければ、そうした事態は早晩、現実のものになるだろう。