知を探索し、組み合わせよ

さて、多くのみなさんは、これからの時代に成功するのは、1つの卓越した専門性を備えている人だと考えるのではないでしょうか。すなわち、「知の深化」を徹底したタイプです。たしかに、こういうわかりやすい専門家も重要です。しかし、不確実性の高い時代に私があえて注目してほしいのは、「一見、どこに強みがあるかわからないのだけれど、なぜか高い業績を上げ続け、いつの間にか出世している人たち」です。これは学術分析に基づかない私見ですが、実は知の探索力を最も有効活用しているのがこのタイプの人たちなのではないか、と私は考えています。


マドンナの場合(写真=AFLO)

その典型例が、実はあのアメリカの大スター、マドンナです。彼女は1982年に歌手としてデビューして以来、 不確実性のきわめて高い芸能界で四半世紀も人気を保っています。しかし、抜群の歌唱力があるわけではない。ダンスもやりますが、これも超一流とはいえません。女優でもありますが、出演した映画はいずれもコケています。どれも超一流のスキルはないのに、なぜかスーパースターであり続けているのです。その秘訣は、彼女の「知の探索」を生かした戦略性の高さにあるのではないか、と私は考えています。

彼女にとって最大の岐路になった環境変化は、MTVの出現でした。それまでの歌手にとって、最大の武器は歌唱力。しかしMTVの出現によって“事業環境”は一変、「歌と映像の組み合わせ」が重要になったのです。それと時期を同じくしてデビューしたマドンナは、まずは歌にセクシーな衣装とセクシーなダンスを「組み合わせる」ことで、一種のイノベーションを起こしました。

さらに彼女の知の探索は続きました。ジョン・ベニテスなど複数の音楽プロデューサーと新しいジャンルの音楽に取り組んだり、一時は映画監督のショーン・ペンやガイ・リッチーと結婚したことも、女優も目指した彼女の探索行為の表れだったのかもしれません。最近、彼女は映画監督業にも進出していますが、その知見の多くはこの2人から得たと公言しています。

ここでは芸能界の話をしましたが、これはみなさんのキャリア構築にも示唆が大きいはずです。不確実性の高い世界では、「知を探索して組み合わせること、そのために他者の知を活用すること」が、キャリアを築く武器になります。そして、こういった「知の探索型」の人は何か1つに飛び抜けているわけではないので、周りからは「なぜ成功しているのかわからない」と思われがちなのです。でも、よく考えたらアップルだって、パソコンの会社なのか、音楽配信の会社なのか、携帯電話の会社なのか、よくわからないではないですか。

日本人はどうしても、はっきりした専門性のある人を評価しがちです。しかし、「何が専門かわからないけど、いつのまにか成功している」というのは、実は「知の探索」行為の結果であり、そして不確実性の高い時代に求められる1つのキャリア像なのです。

(構成=荻野進介 写真=AFLO)
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