元アメリカ財務長官ラリー・サマーズは、アメリカ経済が減速し景気後退に突入した場合、ドナルド・トランプ大統領はジェローム・パウエルFRB(連邦準備理事会)議長に責任をなすりつけようとしているのではないか、と警告した。
サマーズは、ABCニュースの番組『This Week』に出演した際、「トランプは経済が悪化したときのスケープゴートを探している」と語った。「パウエル議長への攻撃の本質はそこにある。利下げという政策変更が目的ではない」
トランプは関税を経済および外交政策の中心に据えてきた。貿易交渉を通じて紛争の終結を図り、国際貿易の構図をアメリカに有利なかたちに作り変えようとしている。
しかし、多くの経済学者や経済界のリーダーたちは、トランプのこの方針が景気後退を招くと警鐘を鳴らしている。輸入品に関税をかけることでアメリカ国内の物価が上昇すれば、多くの人が消費を減らし、現金を貯め込もうとする可能性があるためだ。
そのためトランプはパウエルに利下げを強く求めてきた。景気を刺激し、国民の消費意欲を高める狙いだが、パウエルはインフレのリスクが大きいとしてこれに応じておらず、トランプは大きな不満を抱いている。
7月25日には、トランプが世界の90か国以上を対象に10〜41%の関税を課す大統領令に署名したことを受けて、株式市場が急落した。
同日に発表された7月の雇用統計では、就業者数の増加が7万3000人にとどまり、ダウ・ジョーンズが予測していた10万人を大きく下回った。加えて、5月と6月の雇用統計も大幅に下方修正され、両月の成長は極めて弱かったことが明らかになった。
その後トランプは、労働統計局(BLS)のエリカ・マッケンターファー局長を解任し、統計結果を「政治的目的」で不正に操作されたと非難した。
ビル・クリントン政権およびバラク・オバマ政権で要職を務めたサマーズは、経済の失速が続いた場合、トランプは局長だけでなくパウエルをもスケープゴートにしようとしている可能性があると指摘した。パウエルはトランプ自身が大統領1期目で議長に指名したのだが。
「FRBを政治的に攻撃するのは、やぶへびのゲームだ」とサマーズは語った。「FRBはそんなことには耳を貸さない。だからこれで短期金利が変わることはない。しかし市場は耳を貸す。そして長期金利が上昇し、住宅購入のコストが上がる。トランプの介入はむしろ経済に打撃を与えており、助けになっていない」
「大統領はそのことを理解していると思う。自分の政策も含めて、さまざまな要因によって経済は今、非常にリスクの高い状況にあるという認識があるはずだ」と、サマーズは言う。
またサマーズは、マッケンターファーの解任について、政権内からほとんど抗議の声が起こらないことに驚きを示した。「これは、リチャード・ニクソンがやったどの行為よりもひどい」と語る。
ニクソンがウォーターゲート事件の最中に司法妨害でアーチボルド・コックス特別検察官を解任しようとした際には、複数の高官が抗議の辞任をした。この一連の出来事は「土曜夜の惨事」として知られている。
今年2月にもトランプは類似の事態に直面した。司法省の幹部職員数人が辞任した。ニューヨーク市長エリック・アダムズに対する汚職容疑を取り下げるよう命じられたことに対する抗議で、「木曜夜の惨事」と呼ばれた。
サマーズは、マッケンターファーもスケープゴートにされたと受け止めている。「BLSのデータは、詳細な手順に基づき、数百人規模のチームによって作られている」と、サマーズは言う。「BLSのトップが数字を操作するなんてことは、考えられない。統計は、民間企業のデータとも整合している」
サマーズは、景気後退入りの可能性については慎重な姿勢を崩していない。「今は『失速状態』にあると言える。そこから景気後退に傾く可能性もあるが、現時点ではそこまでは言えない」と語った。



