結局、問題は自分の心の中にある

では、こうした時代にあって、私たちはどうすれば、より多くの「幸福」を感じられるようになるのだろうか。

前段で述べたように、「達成型」という「幸福のかたち」の破綻は、経済の行き詰まりという問題と密接に結びついている。すべては経済の没落に起因していると言っても、あながち言いすぎではない。

では経済を何とかすれば、何とかなるのだろうか。私たちは再び「達成型」の幸福のかたちに帰還し、現状よりも多くの幸福を感じられるようになるだろうか。

おそらくそれは難しいだろう。すでに述べたように、それは再び高欲求・多欲求への道に突き進むだけのことだからだ。

もちろん、経済を安定させ、不安を一掃することは、幸福のベースとして不可欠である。しかし、それはまた同じ道をたどるためのものではないはずだ。

同じ道をたどらないために、今私たちは、経済のような客観問題だけでなく、心の問題(私の中ではそれは思考のあり方の問題である)にもアプローチする必要がある。幸福を感じられる「心」をどうつくるか、という大きなテーマである。

そのための課題は2つある。

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図5 「幸福のかたち」のバランス転換

1つ目の課題は、もう1つの幸福のかたちである「遍在型」をどう取りこむかということである。「欲求を満たしやすい自分をどうつくるか」というテーマだと言い換えてもいい。あらためて何かを獲得しようとするのでなく、「今そこにある幸福」を見出していこうとすること。そうした思考のありようを身につけるということである。

もちろん、この競争社会にあって、それだけで生きていくのは難しいだろう。しかし、一方で「達成型」を生きつつ、「遍在型」へと少しずつバランスをシフトさせることなら、誰でもできるのではないかと思う。要はやる気だけなのである(図5参照)。

幸福をより多く感じるためのもう1つの課題は、客観的な状況がどうあろうとも、「負の感情」から自由でいられるようなメンタリティを日頃からつくっておくことである。先の考察を踏まえていえば、怒りや不安といった「負の感情」を生み出す思考を、そうでない思考へと転換することである。

物理的に満たされながら、私たちが幸福を感じられない理由は、あまりに多い「負の感情」のためである。これを少しでも減らすことができれば、私たちの幸福の感じ方も、きっと変わっていくはずである。

(図版=奈良雅弘)
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