同じくらいの豊かさやステータスでも、幸せの感じ方は人によって大きく違う。幸福を感じやすい人とそうでない人の違いとは何だろう。心理学的に分析しつつ、少しでもそこに近づく道を探ってみた。

個人の感じ方に大きな差がある理由

幸福とは心の状態であり、きわめて主観的なものである。したがって、その感じ方には大きな個人差がある。

個人差が生じるのは、主に2つの原因による。1つは欲求パターンの違い。もう1つは思考(認知)のあり方の違いである。

第1の原因である「欲求パターンの違い」とは、人によって欲求ごとの強弱が異なり、それによって幸福の感じ方の差が生じる、ということである。

たとえば、誰にでも「人から認められたい」という欲求はあるだろうが、誰よりも高く評価され、組織のトップまで上り詰めたいという強い欲求を持つ人と、周囲の人にちょっと褒めてもらえればいいという、ささやかな欲求の人とでは、同じ地位を与えられても、幸福の感じ方はまったく異なるはずである。欲求(の強弱)パターンによって、生じる感情、つまりは幸福を感じるか否かは、まったく変わってくるのである。

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図2 人間の欲求は変化していく

こうした「欲求パターンの差異」を生むのは、1つは生来的な資質である。近年の研究で、脳の構造は男女で予想以上に大きな違いがあることが判明してきているが、男女間だけでなく、個人間にも多様な資質の差異があり、それが欲求パターンの差異を、さらには幸福の感じ方の差を生む一因になっていると考えることができる。

一方、その人の「境遇」もまた、幸福の感じ方の個人差を生む一因であると考えることができる。マズローの「欲求段階説(図2参照)」が示すように、豊かでないときには、食べ物を手に入れることなどが中心的欲求となるが、それなりに豊かになれば、社会的に承認されるとか、自己実現をするとか、そういう欲求のほうに重点は移ってくる。つまり、人の欲求パターンは境遇によって変化するものであり、多様な境遇の人が世の中にいる以上、幸福の感じ方が多様なのも、当然のことである。