前回の比較を総合すると正社員と非正規が働き始めてから死ぬまでに稼ぎ・貰える額の合計は片や3億円台、片や1億円台。どんなに少なく見積もっても、おおよそ2億円の差が生まれる。

収入や保障の面で恵まれている正社員とはいえ、もちろん気楽な稼業ではない。仕事の責任は重く、長時間労働を強いられ、転勤で単身赴任させられ、陰湿な社内イジメや半ば強制的なリストラが横行する……といったことも起こる。仕事も上司も部下も自分では選べない。自分のやりたくない業務であることのほうが多いのだ。それでいて業績への貢献度でシビアに評価され、賞与が目減りすることは珍しくない。加えて最近は、低待遇な「名ばかり正社員」も増えている。

しかし、それでも「正社員でいる」ことの重要性は今後さらに高まるにちがいないと語るのはFPの山崎俊輔氏である。

「正社員の座を維持することは人生設計上とても大事です。スキルを絶えず磨き、社内外で通用する人材であることが正社員の座を揺るぎないものにします」

そうして正社員を全うすることで貰える退職金のありがたみはかなり大きい、と山崎氏は続ける。

「30~50代は出費がかさみ、老後資金を蓄えることは優先順位が低くなります。その結果、貯金ができなくても退職金があればとても助かるはずです。また、年金支給開始が65歳以上となる関係で60歳以上も働ける環境を整える企業が増えていますが、正社員はそのまま継続雇用される可能性が高い。仮に年収250万円程度に減っても無収入の人に比べ65歳以降の生活が楽になります」

前出・井戸氏は大学生のキャリア相談をしているが、入社3年以内にあっさり会社(正社員)を辞める若者が多いことに、こう苦言を呈する。

「やりたい仕事ではない、自分の将来像が描けない、と言って3年未満で辞めた人を採用する企業はほとんどありません。つまり、せっかく厳しい就活を勝ち抜き正社員になったにもかかわらず、その後は非正規という雇用形態で働き続けることになるかもしれない。それは生涯で2億円以上の損をするかもしれないということを強く認識すべきです」