アメリカが重視する「石油権益」の確保

プーチンの大号令の下、ロシアでは、アジア向けのガス田や輸出基地の開発を急ピッチで進めている。ロシアのヨーロッパ向けのガス輸出の大半はパイプライン経由で、もともとLNGの輸出は少なかったが、現在はアジア市場開拓のためにウラジオストクでLNGの輸出基地建設を始めている。LNGでは時間もカネもかかるということで、サハリンやウラジオストクから日本に直接パイプラインを敷くプロジェクトもある。

13年2月、森喜朗元首相が首相特使としてロシアを訪問したのに引き続き、4月29日に安倍首相とプーチン大統領の首脳会談が開催された。日ロ関係が慌ただしくなってきたのもアメリカのシェールガス革命の余波である。北方領土問題が大きく動き出すきっかけにもなりうるが、一方で日ロの急接近をアメリカは警戒するので、そう簡単には話は進まないかもしれない。

シェールガス革命でアメリカのエネルギー輸入が減少し、中東へのエネルギー依存度が低下すれば、当然、アメリカの中東政策にも影響してくる。

なぜアメリカは中東に関与するのか。イスラエルを守る、という課題もあるが、最大の理由は「石油権益」の確保であった。

世界最大の産油国であるサウジアラビアの親米政府、すなわちサウド王家を支援するのがアメリカの中東政策の第一義なのだ。アメリカとサウジアラビアはアラムコなどを通じて運命共同体の関係にあるため、中東の民主化に熱心なアメリカもサウジアラビアの民主化には口を閉ざしている。

石油権益を守るため、アメリカは国防費の8割を中東に振り向けている。しかしシェールガス革命で中東へのエネルギー依存が低下すれば、その必要もなく、アメリカは軍事予算を削れる。財政赤字のかなりの部分は国防費だから、アメリカの財政収支は大幅に改善される可能性がある。これもドル高要因だ。

シェールガス革命をうまく取り込め

アメリカとイスラエルとの関係にしても、実は米軍のプレゼンスをイスラエルは必要としていない。軍事技術と軍需品を与えられれば、イスラエルは自分で戦う力を持っている。巨額な軍事予算を投じて、アラブ諸国に米軍を駐留させる必要はないのである。米軍が中東から大きく手を引いた場合、中東の石油への依存度を高めている中国が、関与を深めてくる可能性が高い。

(小川 剛=構成 AP/AFLO=写真)
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