大阪のドヤ街・西成にはどんな人たちが暮らしているのか。定期的に西成を訪れるルポライターの國友公司さんの著書『ワイルドサイド漂流記』(文藝春秋)より、1人の男性を紹介する――。
1泊1700円のドヤに住み着くオヤジ
当時、西成の飯場を辞めた私は、「南海ホテル」というドヤで働き始めた。南海ホテルは1階から4階が日雇い労働者と生活保護受給者。5階が男性一般客で、6階には女性が泊まっていた。
私は2階の一室に住むオヤジと少しだけ交流があった。生活保護を受けながら8年間、南海ホテルに棲み着いているオヤジはほとんど部屋に引きこもっていたが、たまに1階のロビーに出てきては右手の人差し指一本でポチポチと共用のパソコンで何やら調べ物をしていた。
競馬とスーパー玉出以外は外に出ない
ある日、オヤジはこんなことを私に言った。
「なんかこう、掲示板みたいなものってどうすれば出てくるのかね? 女の人と出会いたくてね。『君の執事になりたい』って書き込みをしたいんだ」
以来、私はこのオヤジのことを心の中で「執オジ」と呼んでいた。執オジには友人がいない。することといえば週に1回、競馬と「スーパー玉出」へ買い出しに出掛けるだけだ。生活保護を受けているとはいえ、こもりきりになってしまうよりは競馬でも何でもいいから好きなことがあったほうがいいと私も思う。
「そうかい。お兄さんもそう思うかい。でも、俺なんて今はお先真っ暗の落ちこぼれさ。馬券を買いに行く以外はずっと部屋にいるだけだ。お前さん、日本では一日何人の人間が自殺するか知っているかい?」
卑屈な執オジはトランクスにランニング姿でそんなことを言う。館内には女性もいるのでせめてズボンくらい穿いてもらわないと困るのだが、注意する気も失せてくる。
そして、執オジはGoogleの検索窓に「日本 自殺 数」と打ち込んでいる。寂しいのはわかるが、他人を巻き込むのは正直止めてほしかった。

