女性に多額の借金を背負わせる悪質ホスト問題をめぐり、店舗を取り締まる改正風営法が20日、衆院本会議で可決、成立した。ホストによる被害者を取材してきたジャーナリストの富岡悠希さんは「若い女性が減っている地方のホストクラブでは、歌舞伎町とは違う手口で女性客を搾取している」という――。

500万円以上の借金を抱えたシングルマザー

「お金を搾取され、500万円以上の借金が残っています。今は朝晩と働きづめです。死にたくなる時もありますが、息子には私しかいませんし……」

まもなく40代半ばとなる四国在住のシノブさん(仮名)は、自身の苦境をこう訴える。彼女は2023年秋~翌年の夏、愛媛と神戸のホスト2人に貢がされた経験を持つ。

シノブさんと写真に収まるホストの男性A=2023年12月、愛媛県内のホストクラブにて
本人提供
シノブさんと写真に収まるホストの男性A=2023年12月30日、愛媛県内のホストクラブにて

地元の高校を卒業して働いているシノブさんは、主にパートや派遣で年収200~300万円の仕事に就いてきた。さらに6年ほど前に離婚し、小3の息子を育てている。実家が裕福とか、宝くじで高額当選したなどの特記事項もない。

カツカツではないが経済的にやや苦しい、地方在住のシングルマザー。そんなシノブさんは、過去1年半ほど悪質ホスト問題を追ってきた筆者の感覚では、歌舞伎町だと「太客ふときゃく」にはなりにくそうだ。

しかし、地方ホストは違う。シノブさんのような客にも必死の営業をかけてくる。

「お願い、(シャンパン)おろして」

神戸の店では担当ホストから、何度も懇願された。地方では人口減少が定着し、特に近年は若年女性の東京流出が進んでいる。限られた女性客を必死に奪い合う渦に巻き込まれた一人が、シノブさんだ。

月収20万円超でも狙われた

シノブさんは離婚後に出会って5年ほど交際していた男性と、2023年9月上旬に別れた。孔子は「四十にして惑わず」と言ったが、その域に達する人は間違いなく少数。「不惑」過ぎだったシノブさんも、寂しさに勝てなかった。

「楽しくお酒を飲めたら」。無料案内所を経て、初回無料の愛媛のホストクラブの入口をくぐる。人生初のホストクラブ遊びだった。

一度入店してしまうと、口八丁手八丁で女性を取り込むのは、どこのホストも同じ。36歳だった担当Aも、そうだった。シノブさんから送ってもらった写真に映るAは、下腹部が筆者よりふくよかだ。しかし、精神的に弱っていた彼女に入り込んだ。

もちろん無料は初回だけだから二度、三度と通うと支払い額が増える。当時のシノブさんは、月収二十数万円で自分用の貯金ゼロ。現金払いだとすぐに詰まるが、クレジットカードを持っていたのが悪いほうに出た。先払いにすることで、通うことができたからだ。

ほどなくAが頼み込んできた。「12月は1年の締めくくりだから、目標を達成したい。シノブ、頼む」。他の女性が使う予定だった分も肩代わりすることになった。

「他の女性分をなんで私が使わないといけないのか。私にばかり負担がかかり、もう嫌だ」。そんな気持ちになったが結局、押し切られ、同月末に一晩で約40万円も使った。

2024年1月のホストクラブでの伝票。シャンパン代10万円などを合わせ、一晩の支払額は40万円を超えた
本人提供
2024年1月のホストクラブでの伝票。シャンパン代31万円などを合わせ、一晩の支払額は40万円を超えた

現金で10万円を払い、年明けに10万円を振り込んだ。残り20万円は売掛(ツケ払い)となった。クレカ払いとしなかったのは、高額利用できるカードがなくなっていたことによる。