その日の夜、山田GMは栗山監督、大渕SDと一緒に軽く祝杯をあげた。ビールと焼酎の水割り。「それはもう、おいしいお酒でした」。勝因は。

「会社のため、チームのため、ファンのため、ひとつの目的にみんなでバーっと進んだことではないでしょうか。長期にわたってチームを強くしたいという気持ちがある。うちは成功しても失敗しても、そこに向かっています」

狙い通り、最後はメディアの多くもファイターズの味方になっていた。日本のプロ野球ファンも大谷選手のファイターズ入りを喜んでくれた。

「世間から見ても、そうだな、と思われるように努めました。日本ハムは、本人の夢をかなえるために指名したのだということです。メディア対応のコツ? 誤解されると困るので、あまり多くを言わないことですか」

ついでにいえば、日本ハムは入団交渉で提示した球団資料「夢への道しるべ」を公式ホームページで公開した。なぜ手の内を明かしたのか。答えは簡単、球団理念が「ファン・サービス・ファースト」だからである。

「ファンに対しての返事でした。ファンから問い合わせが多かったから、球団として一気に資料を公にしましょうとなったのです。まずファンを大事にしないといけませんから」

育成型のチームになる。その強化方針を支えているのが、2006年から導入したITの「ベースボール・オペレーション・システム」(BOS)だろう。試合分析のほか、スカウト活動、選手査定などで活用されている。

簡単にいえば、データで行う客観的な試合の分析、選手の力の評価システムである。例えば投手なら、足の速さから球速、球のキレ、球の種類、制球力など、いくつものアングルから選手の資質を分析する。そうやってファイターズは、12球団に所属する1軍選手、およびドラフトの対象となりうる高校生、大学生、社会人などのデータを数値化しているのだ。

ドラフトの場合、かつてはスカウトの直感、眼力だけにウエートを置いていた。だがファイターズはBOSで数値化し、順位付けしたうえで、性格面なども調査していく。昨年のドラフトではチーム戦略に則って、個人の資質と栗山監督とのマッチングを考えると、一番が大谷選手となったのである。