※本稿は、笹木郁乃『仕事をしながら1日30分で売上が最大化する「超効率PR」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
まったく無名のマットレスを売るためにやったこと
私は25歳の頃、自動車部品メーカーから寝具メーカーのエアウィーヴに転職しました。マーケティング兼営業という肩書でしたが、当時はまだ社内の体制が整っておらず、私はマーケティングだけでなく、販促ツールの作成から広告コピーづくり、そしてプレスリリース作成まで幅広く担当する必要がありました。私は偶然に近い形で、PRの世界に足を踏み入れたのです。それも、ほぼ一人で。
当時、エアウィーヴのマットレスはまったくの無名でした。
東急ハンズ(現ハンズ)や大手百貨店のバイヤーさんに交渉しても、1週間だけ置いてみて、売れなければ終了という厳しい条件ばかり。私も販売員としてエプロンをつけ、店頭で「いらっしゃいませ」とお客様にお声をかける日々でした。
ところが、誰も立ち止まってくれません。「いったい、どうしたら振り向いてもらえるのか……」と頭を抱えていました。通りすがりのお客様に「高反発の最新マットレスです!」と説明したり、拡材で「雲の上で寝たような寝心地」と謳ったりしても、ピンときてもらえないのです。
価格でも商品のスペックでもない
東京ビッグサイトで開催された、ランナー向けイベントに出店したときも同じ体験をしました。数万人のマラソン参加者が集まる場ですから、疲れがとれるマットレスとして評価され、売上が伸びるのではと期待したのですが、3日間でわずか数枚しか売れないという結果に終わりました。
私は店頭用のポップを自作し、文言を毎日変えながら、ABテストを繰り返しました。ABテストとは、広告や販促物などで2つのパターンを用意して、どちらがより効果的かを比較検証する手法のことです。
すると「極細繊維状樹脂が」と専門用語を並べるより、「トップアスリートに好評!」と書いたほうが、お客様には圧倒的に興味を持っていただけました。裏を返すと、どれだけ製品が優れていても、ただ製品を紹介するだけでは見向きもされない現実を思い知らされたのです。こうした経験から、私は戦略を練りました。
分かっていたのは、「誰が使っているか」「どんなストーリーがあるか」を知ると興味を持ってもらえるということ。それならばと、「どうやってトップアスリートに使ってもらうか」を考え始めたのです。

