年老いた親と接する時、どんなことに気を付ければいいのか。理学療法士の上村理絵さんは「親の生活をラクにしてあげよう、と思っているとむしろ老化を進めてしまうケースがある。私がリハビリで関わっていた80代女性も、娘との同居をきっかけに身体機能が改善しなくなってしまった」という――。(第4回)

※本稿は、上村理絵『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)の一部を再編集したものです。

シニア女性が泣きながら顔を手で覆っている
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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親の面倒を見すぎてはいけない

「人が環境をつくり、環境が人をつくる」とよくいわれていますが、それをあらためて実感した出来事がありました。

「今度、娘と同居することになったのよ」

松崎さん(仮名)がうれしそうに私に話しかけてくれたのは、長かった残暑がようやく落ち着いた初秋のころだったように記憶しています。83歳になる松崎さんは、数年前に病気を患ってから、足腰がおぼつかなくなってきて、私たちのリハビリ施設に通うようになったのです。

足腰が弱っているので、テキパキとはいきませんが、家事もこなすことができていたので、旦那さんが亡くなられた後も1人で暮らしていました。少し前に病気で体調を崩してしまった松崎さんを心配した娘さんが、熱心に「同居したい」と持ち掛けてくれたそうです。

娘さんとは仲がよいそうで、彼女自身も同居を心待ちにしているようでした。冬の訪れを感じ始めたころ、それまでと同じようにリハビリを続けていたのですが、彼女の身体機能があまり改善しなくなりました。

もしやと思い、「最近どのように過ごされていますか?」と質問したところ、「娘が身の回りのことを、すべてやってくれているんです」という答えが返ってきました。松崎さんの身体機能の改善が見られない原因は予想していた通りでした。

その原因とは、娘さんの深すぎる愛情です。

これまで育ててくれた感謝の気持ちが強いからか、「体が弱っているのなら、私が助けてあげる」という思いで、身の回りの世話を焼きすぎたのです。