常識だった「紙パック式」への疑問
その革新的な掃除機は、今や単なる家電を超えたブランド価値を放っている。イギリスの発明家兼デザイナー、ジェームズ・ダイソン氏が世に送り出したスティック型掃除機メーカー、ダイソンの商品群だ。
紙パック不要で強力な吸引力を実現するサイクロン方式に、集塵したゴミが一目でわかる透明なクリアビン、そして誇らしげに存在感を放つカラフルなデザイン。その特長の一つ一つが、掃除機業界の慣習に真っ向から挑戦するかのようだ。
イギリスで創業され、現在はシンガポールに拠点を構える国際企業となったダイソン社。しかし、正式な起業前にダイソン氏が初めての大ヒットを飛ばしたのは、意外にも1986年の日本市場だった。
英ガーディアン紙は2016年の記事で、ダイソン氏へのインタビューを掲載。そのなかでダイソン氏は、当時の軌跡を振り返っている。
1970年代後半に彼は、史上最強の吸引力を謳う紙パック式掃除機を購入したものの、「吸引力が弱まり、バッグが破れてしまい、イライラした」という。
当時の消費者は頻繁に紙パックを交換しなければならなかったが、何を隠そうこの紙パックこそ業界の貴重な収益源であり、消費者は年間5億ポンド(現在のレートで約970億円)を支払い続けていたという。
日本でのヒットが成功への第一歩になった
改善を決意したダイソン氏は、15年の歳月を投じて試作品の完成に漕ぎ着ける。だが、長引いた開発により多額の借金を抱えたうえ、後述のようにイギリスの既存の業界各社からはそっぽを向かれる始末。そこへライセンスの使用を打診したのが、日本の商社・エイペックス社だった。
すぐさま飛行機に飛び乗り、日本で徹夜での会議を数回重ねた甲斐あって、ダイソン氏のアイデアは「G-force」の製品名で製品化。当初のデザイン案とは異なる鮮やかなピンクのボディーとなったが、結果として日本市場で大ヒットを収めた。
軌道に乗ったダイソン氏はG-forceから約2年後、ダイソン社として初のサイクロン式掃除機「DC01」をイギリスで発売する。1階が作業場、2階が事務所という小さな小屋に、エンジニア集団がギチギチに詰まって製品開発を続けた。これが現在まで続くダイソンブランドの最初の一歩となった。

