【田原】なるほど。それにしても、どうして生命保険だったのですか。日本の生保業界は大手の寡占状態でしょう。ベンチャーでもいけるという確信はあったんですか。

【岩瀬】きっかけは、投資家の方からの提案です。僕のまわりはモバイルとか技術系のベンチャーばかりなので、保険業界と聞いて直感的に「意表をついておもしろい!」と思いました。冷静に考えても、僕が留学中に聞いた「大きく伸びるベンチャービジネスの3つの条件」に生保はあてはまっていました。それならチャンスがあるだろうと。

【田原】3つの条件って何です?

【岩瀬】まず1つは、「みんなが使っているものを対象とせよ」。これは大きい市場を狙えという意味です。次に「みんながわずらわしさを感じているものを対象にせよ」。これは大きな非効率がある市場がいいということ。そして3番目が、「技術革新や規制緩和で、そのわずらわしさを取り除く可能性のあるものを対象とせよ」。生保は、どれもあてはまるのです。

古くて変化のない業界こそチャンス

田原総一朗氏

【田原】非効率があるというのはわかるなあ。日本の大手の保険会社は、いまでも株式会社ではなく相互会社。つまり株式を公開していないですよね。そういう業界は、ほかに聞きません。

【岩瀬】昔のことを調べていたら、100年前も生保の営業職員が家を訪問して奥さんに不安をあおって保険をすすめていたという資料を見つけました。ひょっとするといまもあまり変わっていないかもしれません。生保のビジネスモデルは、戦後50年の縮図です。専業主婦で子だくさんだから旦那さんはたくさん保険に入りましょう、手数料は高いけど高度成長で金利も高いから気にしなくていいですよ、という理屈で成り立っています。ところがバブル崩壊を機に、低成長低金利、女性も働き始めて少子化になってしまった。時代はがらっと変わったのに、生保業界は延々と同じことを続けています。