※本稿は、野地秩嘉『伊藤忠 商人の心得』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
負けを極小化するための「か・け・ふ」
「負けを極小化する秘訣は日頃の商売の姿勢にある。商売の心得は『か・け・ふ』。稼ぐ、削る、防ぐだ。稼ぐは儲けてくること。削るは、無駄なコストを減らすこと。そして、防ぐは特別損失がないように危機管理すること。
このなかで、もっとも難しいのは防ぐこと。稼ぐと削るはやってみれば結果は出てくるけれど、防ぐとは見えないリスクをどうやって見つけて、対処するかです。商社ならば、投資先や取引先が『危ないんじゃないか』となる前に手を打っておく。すると、たとえつぶれても負けを小さくすることが可能になる。
防ぐためには現場へ行くことでしょう。取引相手と一度、商売したら、関係を終わらせずに定期的に出向く。相手がどういう状況にあるのか自分自身で確認する。定期的に訪問して、投資先、取引先の顔を見ていたら、『大丈夫かな』と勘が働く。変化や問題点を早く発見できる。防ぐとは早期発見、早期対処なんです。きめ細かくつきあうことが重要。商売に近道はありません。手間と時間を惜しむから、『あっ、知らないうちにこんなことになっていたのか』となってしまう。
「うちも大きなことは言えない」
ただ、うちも大きなことは言えない。伊藤忠もメンテナンスをしなかったために失敗した例がいくつもある。投資した海外の事業会社とのコミュニケーションがおろそかになったために損を膨らませたこととか。それはもう、投資先をほったらかしにしていたことが原因です。伊藤忠側の責任者が日本にいて、投資先の報告を受け取っていただけだった。現地の担当者が『大丈夫』と言っていたために、まかせっきりにしてしまった。そうしているうちに海外の事業会社の業容はどんどん悪くなっていき、損切りの機会を逸してしまった。
後で聞いてみたら、現地にいた社員は事業が悪化していることに気づいていた。それなら現地の社員はもっと上にアピールすべきだし、上の立場の責任者は一度、現地へ行くべきだった。結局、手間を惜しんだんです。手間を惜しむと負けを極小化することができなくなる。本当の商人を自負したいのであれば、報告だけで判断せず、現場に足を運んで、自分の目と耳で確かめる」

