ウォール街と国民の反対にビビるトランプ
とはいえ、そんな中国の野望も長くは続かないだろう。
「トランプ氏の狙いは、来年11月の中間選挙で、上下両院ともに共和党が勝つこと。トランプ氏が関税の発動に90日間の猶予を設けたのは、アメリカの株価の急落や物価高を恐れる国民の反発が予想以上だったため、ビビッてしまったからです。高関税はあくまで取引材料で、長続きはしません」
とは、ボストンのTV局、WGBHのプロデューサーが筆者に語った予測である。
UNIQLOなどを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(76)も、4月10日に開いた決算会見で「トランプ氏の関税政策は、たぶん続かない」と予想している。
これらの見方には筆者も同調する。バイデン前大統領に対する「不満のポピュリズム」で再選を果たしたトランプ氏がもっとも神経質になるのがウォール街や国民の反応だからである。
4月13日、トランプ氏が「スマホなどの電子機器には別の関税を課す」との考えを示したのは、中国からの輸入が多い情報通信機器の販売価格が関税によって急騰し、若者らの反発を買うことを恐れたためだ。
日本で言えば、石破茂首相(68)が近く、赤沢亮正経済再生相(64)をアメリカに派遣し、相互関税の見直しを求めることにしているが、トランプ氏とすれば、各国との間でアメリカへの投資やアメリカ製品の輸入拡大にメドがつけば、「中国を利するだけ」で「自分への支持率を下げるだけ」の政策は取り止め、対中関税に絞る可能性も十分にある。
石破政権は「土下座外交」するしかない
ただ、石破政権としても対策は急務だ。政府・与党内では、所得制限は設けず1人あたり5万円を給付する案や、食料品等を念頭に置いた消費税の減税策が浮上している。
前者は、参議院選挙を意識したバラマキにすぎず、過去の給付を見ても政権浮揚にすらならない愚策だ。後者も、一国民としては助かる反面、国の税収の3割を占める安定財源を大幅に減らしてしまう付け焼刃の政策だ。
筆者が思う関税対策は、石破政権として愚策をゆるゆると考えながら、トランプ氏の翻意を待つことだ。強いてやるなら、格好は悪いが「土下座外交」を繰り返すことである。
トランプ氏には、潜在的に「われわれは日本を守るが、日本はわれわれを守らない。何も支払わない」という安全保障上の不満がある。それはおいそれとは消えない。
日本としては、「日本の対米投資は世界一」で「アメリカとはこんな共同プロジェクトが可能」といったファクトを示しながら、トランプ氏に「どうぞ、お目こぼしを」と懇願し続けるしかない。そうしている間に、今、国際社会を襲っている豪雨は止むと思うのである。