すでに中国経済は虫の息だが…
今、中国は、2020年から2022年までの「ゼロコロナ政策」で景気が冷え込み、不動産バブルの崩壊や反スパイ法改正を受けての国際社会からの投資控えもあって、青息吐息の状態にある。
そのうえに高関税による輸出産業へのダメージが加われば、中国にとっては「泣きっ面に蜂」状態になりかねない。
中国当局は、3月開催した全人代(中国の国会)で、今年の経済成長率目標を5%前後に据え置き、景気下支えのため内需を喚起する方針を打ち出した。しかし、関税率が145%ともなれば、外需への下押し圧力は避けられず、経済成長率は少なくとも2%以上は下落するとの見方も出ている。
ただ、筆者の見立ては少し違う。トランプ関税によって最も得をするのは中国だと断言できるからである。
多くの国々が世界第2位の中国へなびく
中国は、1期目のトランプ政権と熾烈な貿易戦争を繰り広げて以降、貿易相手国を東南アジア諸国などへとシフトした。アメリカの貿易額に占める中国の割合は14%弱にすぎない。
また、オーストラリア・シドニーに本部がある研究機関「ローウィ国際政策研究所」(Lowy Institute)によれば、すでに200を超える国々のうち、実に7割の国で対米貿易額より対中貿易額が多く、2023年には100を超える国が、アメリカとの貿易額の2倍を超える貿易を中国と行っているという実態もある。
トランプ氏が「アメリカを再び製造大国にして、アメリカの黄金時代を築く」ことだけを目的に、この先も関税政策を継続すれば、中国の対米貿易額はさらに低下し、多くの国々が、世界第2位の経済大国で、かつては「世界の工場」とも称された中国になびくに相違ない、と筆者は見ている。
4月4日、イギリスのBBCはトランプ氏による関税政策について、「中国首脳にとって『贈り物』」になるとの分析を公表した。
習近平総書記(71)は、この機に乗じて、トランプ氏率いるアメリカを「混乱、貿易破壊、自国利益優先」の国として位置づけ、習氏率いる中国については、「安定、自由貿易、国際協力」を推進する国だとアピールできるというのがBBC記事の要旨だ。
