中国の報道官「保護主義に未来はない」
「中国人はトラブルを起こさないが、恐れもしない。圧力や脅迫、恐喝は正しい方法ではない。貿易戦争と関税戦争に勝者はなく、保護主義に未来はない」
これは、ホワイトハウスのレビット報道官同様、すっかり顔が売れた中国外務省の林剣報道官(47)が4月8日の記者会見で国内外に発信したフレーズである。
中国は、その数日前まで台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を実施し、頼清徳政権に圧力をかけ脅迫していた国だ。個人的には「よく言うよ」とは思うが、言葉だけ聞けば、トランプ氏やレビット報道官が放つコメントよりも、はるかにまともに感じてしまう。
そんな中国も今、1期目のトランプ政権下で貿易戦争を繰り広げたような体力はない。
台湾統一への余力も残しておきたい。そこで、習指導部が目指しているのが、アメリカと1対1で勝負するのではなく、「団体戦でアメリカに勝つ」という体制づくりだ。
代表的なのが、トランプ政権誕生をにらんで進めてきた「戦狼外交」(攻撃的な外交スタイル)から「ほほ笑み外交」への転換である。
習近平の「この指とまれ」大作戦
中国は、アメリカとの貿易戦争を、「トランプ氏の理不尽さに、みんなで対抗していこうよ」とアピールする好機ととらえ、「この指とまれ」と言わんばかりに同調国を募っているのである。珍しく習氏自らが動いた4月14日からの東南アジア3か国歴訪は、それを象徴する動きだ。他にも最近の動きをまとめておく。
(1)EUへの接近
2月、王毅外相が、ドイツ、スペイン、フランスなどを回り25か国の首脳と会談。アメリカに依存しない「多極主義」に賛同するよう呼びかけた。ウクライナ戦争の解決策をめぐってアメリカと対立するEU諸国を中国側に引き入れる狙い。
(2)日本との関係改善
3月、来日した王毅氏は、石破首相らと会談し、相互信頼と協力強化を求めた。日本に「脱トランプ」を迫り中国に傾斜させたいという思いの表れ。
(3)アジア運命共同体の促進
3月、中国・海南省のボアオに60カ国以上の代表者を集め、中国共産党序列6位の丁薛祥副首相が、アメリカを念頭に「開放的な地域主義の堅持」を訴え、アジア各国の結束強化を求めた。これもアジア諸国を中国になびかせるため。
このように、中国は、国際社会が「トランプ恐慌」に陥っている現状を利用し、「アメリカVS中国+国際社会」という構図を作ろうとしているのだ。また、国内的には、習氏の経済対策に対する国民の不満の矛先をアメリカにすり替えようとしているのである。
思えば、アメリカがバイデン政権だった時代は、経済も安全保障も「アメリカ+国際社会VS中国」という構図だった。景気の低迷で習氏の指導力にも「?」がつけられたものだ。わずか数カ月で変われば変わるものである。